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イッカク

イッカク

イッカク

あなたはイッカクという、とても長くて不思議なツノを持つクジラの仲間を知っていますか? イッカクはその立派なツノから、伝説の生き物・ユニコーンのモデルではないかと考えられている動物です。 しかし飼育することが難しく、実物を見るためには生息地である北極海に行かなければならない動物でもあります。 この記事でイッカクにはどんな特徴や秘密があるのか、一緒にその暮らしをのぞいていきましょう!

イッカク 基本情報

哺乳綱(ほにゅうこう)クジラ目-イッカク科

体長 オス・最大4.7m(※キバをのぞいた大きさ)、メス・最大4.2m 体重 オス・最大1600Kg、メス・最大900Kg

イッカクは北極海に生息するクジラの1種です。体の色は淡い灰色で背中を中心に黒褐色の斑点模様が入りますが、年を重ねていくと少しずつ体の色が白くなっていきます。イッカク最大の特徴は口元から生えている巨大なツノのように見えるキバで、このキバは上唇を突き破って生えています。

イッカクは基本的に年齢や性別ごとに分かれた、15~20頭の群れを作って暮らしています。しかし時にはその小さな群れが寄り集まって、数百頭にもなる“スーパーポッド”と呼ばれる巨大な群れを作ることもあります。

イッカクのオスは生後8~9年、メスは生後4~7年ほどで性成熟(せいせいじゅく)を迎えて繁殖ができるようになります。妊娠期間(にんしんきかん)は14~15カ月で、通常1回に1頭の子どもを産みます。繁殖期は春で4月頃に交尾を行い、翌年の7月頃に子どもを産むことが多いようです。イッカクの子どもは20カ月ほど母親と一緒に過ごし、生きるために必要な知識を学んでいきます。

イッカク Q&A

イッカク
イッカクの名前の由来は何?

イッカクの名前の由来は口元に生えた1本の大きなキバで、これがツノのように見えることから「一角」という名前がつけられたと言われています。

なおイッカクは英語では「Narwhal」、学名は“1本の歯”という意味がある「Monodon monoceros」と表現されます。

イッカク
イッカクはどうしてそこに住んでいるの?

イッカクは北極海に生息していて、秋になると海氷(かいひょう)の成長に合わせて外海(がいかい・そとうみ)へ移動し、春から夏にかけては食べ物が豊富な内湾(ないわん)に移動する習性があります。

イッカクがなぜ北極海に生息しているのか、はっきりとした理由はわかりませんでした。しかし北極海には植物プランクトンが豊富に生息していて、プランクトンをエサにする魚や貝もまた豊富に生息しています。さらにその魚や貝を狙うセイウチやシロイルカ、セイウチやシロイルカを食べるホッキョクグマやシャチなど、多くの動物が生息しています。

この事から考えると、イッカクが北極海に生息している1つの理由は“食べ物が豊富にあること”なのではないかと考えられます。

イッカク
イッカクは何を食べているの?

イッカクは肉食性の動物で、魚(カレイ、タラなど)、頭足類(イカ、タコなど)、甲殻類(カニ、エビなど)などを食べています。

後ほど「イッカクのツノ(キバ)にはどんな特徴があるの?」で詳しく説明しますが、イッカクには歯が2本しかありません。どちらの歯も構造上物をかむことができないため、イッカクは魚やエビなどを吸い込んで丸飲みにして食べています。

イッカク
イッカクはどんな性格なの?

イッカクの性格はとても繊細(せんさい)で、臆病(おくびょう)だといわれています。

船でイッカクに近づこうとするとその音や振動を察知して、あっという間に深いところに潜って逃げてしまうそうです。そのため間近で姿を見ることも、観察や研究をすることも難しいといわれています。

なおイッカクは最大で1000m、最長で20分もの間海に潜り続けることができるといわれています。

イッカク
イッカクとイルカにはどんな違いがあるの?

クジラの1種であるイッカクとイルカには、どんな違いがあるのでしょうか?

クジラとイルカはどちらも「クジラ目」に分類される動物で、住んでいる場所や食べている物もほぼ同じです。実はクジラとイルカには大きな違いはなく、体の大きさが大体4m以上のクジラ目の動物がクジラ、4m以下の動物がイルカと呼ばれています。そのため体長が最大4.7mほどになるイッカクはイルカではなく、クジラの仲間に分類されているという訳です。

なお「クジラ目イッカク科」にはイッカクとシロイルカ(ベルーガ)の2種が分類されていて、他のクジラと違う特徴を持っていることが知られています。特徴の1つは首の骨に見られ、多くのクジラの仲間は首の骨の一部がくっついているため首を自由に動かすことができませんが、イッカクとシロイルカの首の骨はくっついていないため首を自由に動かすことができます。

またこの2種は生息地がかぶっていること、遺伝的に近いことから自然環境の中で交雑し、子どもが生まれることが知られています。実際に北極海周辺ではイッカクとシロイルカ両方の特徴を持つ、2種の雑種だと思われるクジラが目撃されています。

イッカク
イッカクのツノ(キバ)にはどんな特徴があるの?

イッカクの口元から生えているツノはシカやウシのようなツノではなく、前歯が巨大化したキバです。

イッカクは大きな体を持っていますが、実はその口の中には歯が2本しかありません。2本の前歯のうち左の歯だけ、それもオスの歯だけが上唇を突き破って外に出て、左方向にねじれながら伸び続けて最大3mの長さになります。不思議なことに右の歯は基本的に伸びず、上あごの骨の中に埋もれたまま外に出ることはありません。

なおオスの右の歯とメスの歯は基本的に伸びることがありませんが、まれに歯が2本伸びるオスやオスのように歯が伸びるメスもいることが知られています。さらに珍しいケースになると、歯が2本とも伸びるメスもいるようです。

またイッカクのキバは本来白色ですが、藻(も)が生えて緑色になっていることも少なくないようです。とはいえ先端はいろいろな場所に触れるため磨かれて、本来の白色をしていることが多いとされています。なおイッカクのキバはとても柔軟で、どんな方向にも曲げることができます。

イッカク
イッカクにはなぜ大きなツノ(キバ)があるの?

実はなぜオスのイッカクに大きなキバがあるのか、キバが何に使われているのか今もはっきりとわかっていません。

キバの使い道に関してはいろいろな説がありますが、「オスがメスに自分をアピールするために使われている」「オス同士でメスをめぐって競う時に使われている」という説がよく聞かれます。どうやらイッカクのキバは長い方が魅力的なようで、オスが海面にキバを出して長さを比べる、キバをお互いにぶつけたりこすり合わせたりする、“スパーリング”と呼ばれる行動をするところがよく目撃されています。そのためイッカクのオスの顔には、他のオスのキバでつけられたと思われる傷がよく見られます。

また「キバにはセンサーの役割がある」という説もあります。イッカクのキバの表面には小さな穴が開いていて海水が内部に入るような仕組みになっているうえ、内部には神経が張り巡らされていることが判明しています。そのためイッカクはキバを使って海水の塩分濃度や水温、水圧などさまざまな情報を得て、周囲の環境の変化を感知している可能性があると考えられているのです。

他には「食べ物を効率よく取るために使われる」という説もありますが、それではなぜメスにキバがないのか説明がつかないと指摘されています。しかし実際にオスのイッカクがキバを魚に当てたり突き刺したりして、魚を捕まえるところが何度も目撃されています。この事から考えると、食べ物を取るためにキバを使うイッカクも少なからず存在するようです。

さらに「天敵であるシャチやホッキョクグマと戦う時に武器として使う」、「厚い氷に呼吸するための穴を開ける時に使う」、「海底の貝を掘る時に使う」などいろいろな説がありますが、どれが正しいのか、あるいはどれも正しいのか、実はどれも正しくないのか、いまだにはっきりとした回答が出ていないのが現状です。

イッカク
イッカクはユニコーンのモデルになったって本当?

はい、一説には伝説の生き物・ユニコーン(一角獣・いっかくじゅう)はイッカクをモデルに作られたのではないか、と考えられています。

ひたいに1本の長いツノが生えた馬のような動物、ユニコーンは中世のヨーロッパでは神秘的な生き物だと考えられていました。そのツノにはユニコーンの神秘的な力が宿っていてあらゆる病気に効く、解毒作用があると考えられて珍重(ちんちょう)され、一時は黄金よりも高値で取引されていたそうです。

しかし実はこの時取引されていたユニコーンのツノはイッカクのキバ、もしくはセイウチのキバだったと考えられています。現代のようにインターネットが発達していない時代にイッカクのツノを見たら、その大きさや存在感からユニコーンのツノだと考えてしまっても不思議はないかもしれません。

なおイッカクのキバには解熱や鎮静の効果があると考えられ、漢方薬に配合されることもあったようです。

イッカク
イッカクが見られる水族館はあるの?

残念ながら日本国内において、イッカクを飼育・展示している水族館はありません。

イッカクは人が簡単に行くことも住むこともできない北極海に生息しているうえ、非常に臆病で神経質な動物です。そのため同じ北極海に生息するシロイルカと比べても謎が多く、その暮らしや生態について明らかになっていないことが多いのが現状です。

これまで飼育に挑戦した水族館もありましたが、北極海の環境を再現することが難しい、体が大きい、臆病である、といったさまざまな理由から飼育が難しく、長期間飼育できたという事例は1件もないそうです。

なお生きたイッカクではありませんが、三重県の鳥羽水族館では本物のイッカクの剥製やイッカクのキバが展示されています。過去に「実際にイッカクのキバに触る」というイベントが開催されているため、今後も同じようなイベントが開催される可能性もあるかもしれません。

イッカク
イッカクはどのくらい生きるの?

イッカクの寿命については諸説がありますが、野生下で30~40年(最大で50年ほど)ではないかと考えられています。

飼育下での寿命については具体的な情報が見つかりませんでしたが、飼育された個体はいずれも短命だったようです。

イッカク
イッカクにはどんな敵がいるの?

イッカクの天敵は大型の肉食動物であるシャチやホッキョクグマ、セイウチです。海を自由に泳ぎ回るイッカクですが、時にはこれらの動物に襲われて食べられてしまうことがあります。

しかしイッカクにとって、最大の敵は私たち人間です。 イッカクのキバには薬効があると信じられていたため、過去にはキバを狙って乱獲されたという悲しい歴史があります。現在は乱獲されないよう世界的に保護されていますが、立派なキバを狙ったトロフィーハンティングの対象にされることもあるようです。

また地球温暖化の影響を受けて北極海の海氷が溶ける、逆に異様に厚くなるといった事態が起きていて、イッカクの生活を脅かしているといわれています。というのもイッカクはシャチやセイウチから身を守るために海氷に隠れる習性があるため、海氷が溶けてしまうと身を守ることができないのです。さらに厚くなりすぎた海氷にイッカクが閉じ込められて、窒息死してしまうという痛ましい事故も起きているそうです。

なお先住民であるイヌイットの人たちにとって、イッカクは昔からとても貴重な食料の1つです。そのため今もイヌイットの人たちには伝統的な生活を守るため、年間の捕獲頭数や捕獲方法を決めたうえでイッカク猟を行うことが許可されています。イッカクの皮は北極では貴重なビタミンCを豊富に含む食料として、肉はそりを引くイヌたちの食べ物として、キバは貴重な現金収入の元として使われているそうです。

イッカクはワシントン条約では“必ずしも絶滅のおそれはないが取引を規制しなければ絶滅の恐れがあるもの“として「附属書II(ふぞくしょ)」に、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは“絶滅の危険性が少ないもの”として「低懸念(LC)」に分類されています。

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