セイウチ

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あなたはセイウチという、とっても大きな体と牙(きば)を持った海に住む哺乳類を知っていますか?
水族館でパフォーマンスをしていることもあるので、実際に目の前で見たことがあるという人もいることでしょう。
見た目と体の大きさから怖い動物だと思われがちなセイウチですが、実はとっても優しくて賢いすてきな動物です。
この記事でセイウチにはどんな特徴や秘密があるのか、こっそりのぞいていきましょう!


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~基本情報~

哺乳綱-食肉目-セイウチ科-セイウチ属

体長 2.3~3.6メートル
体重 1.2~2トン

セイウチは北極海(ほっきょくかい)とその沿岸域(えんがんいき)に生息する、非常に大きな体と牙を特徴とする海棲哺乳類(かいせいほにゅうるい)の1種です。群れで暮らす傾向が強く、時には数百頭にもなる大きな群れを作ることがあります。

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セイウチの繁殖期(はんしょくき)は 1~3月で、14~15カ月の妊娠期間(にんしんきかん)を経て1頭の子どもを産みます。セイウチのオスとメスは通常全く別の場所で暮らしていますが(オスは1年中北極海にいるが、メスは流氷を追いかけて秋は南に、春は北に向かって移動する)、繁殖期になるとメスは10~15頭の群れを作り、オスと合流して交尾を行います。セイウチの子どもは生まれつき体が大きく、体長は約1メートル、体重は約60Kgもあります。セイウチの子どもは2~3年の間お母さんからおっぱいをもらい、愛情たっぷりに育てられます。

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セイウチは肉食性の動物で、野生では二枚貝を主食にしています。ほかにもイカやタコ、ゴカイやナマコ、巻貝や動きの遅い魚なども食べているようです。どうしても食べる物がない時は、同じ海生哺乳類(アザラシなど)の死骸を食べることもあります。


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セイウチのQ&A

セイウチの名前の由来は何?

セイウチという名前の由来は、ロシア語で“トド”を表す言葉「sivuch(シヴーチ)」だといわれています。どうやら昔の人がセイウチとトドを間違えてしまい、それがそのまま名前の由来になってしまったようです。

なおセイウチの学名は「Odobenus rosmarus」と書きますが、これには“歯で歩く海の馬”という意味があるそうです。日本語ではその体の大きさから、「海象」や「海馬」と表現されることもあります。


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セイウチの牙はどうして大きいの?

セイウチ最大の特徴は、サーベルタイガーのように口からはみ出した大きな牙です。

セイウチの牙は毎年約1cmずつ、一生伸び続けます。そしてオスの牙は最大で1メートル、メスの牙は最大で60センチにもなります。セイウチの牙は生後1年半くらいで外から見えるようになりますが、メスの牙はオスよりもほっそりしていて曲がり方が大きいといわれています。そのためセイウチの研究者は牙を見ると、セイウチの性別や大体の年齢などを推測できるそうです。

セイウチの牙はとても硬く、セイウチは牙を海から陸に上がる時にピッケルのように使ったり、海面の氷に呼吸のための穴を開ける時に使ったり、あるいはオス同士の戦いで使ったりといろいろなことに使っています。


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セイウチにはなぜたくさんのヒゲが生えているの?

セイウチの鼻の周りにはスパゲッティのようなヒゲが500本ほど生えていますが、セイウチのヒゲにはどういった役割があるのでしょうか?

野生のセイウチが主食にしているのは、海底の砂の中にもぐっている二枚貝です。しかし深い海の底には太陽の光があまり届かないため、セイウチは真っ暗な海の中で食べ物を探さなければなりません。そんな時に役立つのが、たくさん生えたヒゲなのです。

セイウチのヒゲはとても感覚がするどく、人間の指のように物に触るとどこに物があるのか、それが何なのかわかるそうです。セイウチは真っ暗な海の中でもヒゲを使って二枚貝を探し、上手に中身だけ吸い出して食べます。


セイウチはどんな性格なの?

セイウチは体がとても大きくて目がぎょろりとしていることから、なんだか怖そうだと思う人もいることでしょう。

しかしセイウチは見た目に反して好奇心旺盛(こうきしんおうせい)で遊び好き、そして優しい性格です。野生のセイウチは子どもに優しく、仲間とよくコミュニケーションを行い、仲間が敵に襲われると勇敢に立ち向かうというどこか人間のような性格をしているといわれています。水族館でセイウチを担当しているトレーナーの方も、セイウチを見ていると人間っぽいと感じることが多いようです。


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セイウチはとっても賢いって本当?

本当です。実際に水族館で飼育されているセイウチはトレーナーの指示を聞き、しっかりと理解してパフォーマンスを行います。三重県の鳥羽水族館で飼育されているセイウチ、「ポウ」くんはなんと30種類以上の技を覚えているそうです。

また野生のセイウチはセイウチ同士でケンカごっこをしたり、海鳥(うみどり)をおどかして遊んだりという「遊び」をすることが知られています。遊びは食べる、寝るといった行動と違って、生きるために絶対に必要なことではありません。そのため遊びをする動物(人間やイヌ、ネコやイルカなど)は賢く、知能が高いといわれています。


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セイウチとアザラシにはどんな違いがあるの?

同じ海に住む哺乳類であるアザラシとセイウチには、どんな違いがあるのでしょうか?

まず1番大きな違いとしては、セイウチには大きな牙があることが挙げられます。アザラシにも鋭い犬歯がありますが、セイウチのように口からはみ出るほど大きな牙はありません。

またセイウチとアザラシでは、陸の上にいる時の姿勢が違います。アザラシは前脚で自分の体を支えて持ち上げることができないため常に地面にべったりと寝そべっていて、移動する時も這う(はう)ように移動します。一方のセイウチは前脚で自分の体を持ちあげて、上体を起こせます。移動する時も前脚を上手に使うので、アザラシよりずっと早く移動できます。

大きな牙があって陸上で上体を起こしていたら、その動物はセイウチだと考えて良いでしょう。


セイウチとオットセイにはどんな違いがあるの?

ではアザラシと同じく、海に住む哺乳類であるオットセイとセイウチにはどんな違いがあるのでしょうか?

こちらも1番大きな違いとしては、牙があげられます。オットセイにも鋭い犬歯は生えていますが、オットセイの牙が口から大きくはみ出ることはありません。

オットセイはセイウチと同じように前脚で自分の体を支えて持ち上げられるため、アザラシと比べると少しだけ見分けにくいかもしれません。セイウチとオットセイを見分けたい!という時は、姿勢ではなく耳たぶに注目してみてください。

オットセイはアシカの仲間の中でも、特に耳たぶが長いことが知られています。もちろんセイウチにも耳はありますが、耳たぶはなくて穴が開いているだけなので、牙と耳に注目すると簡単にセイウチとオットセイを見分けられます。


セイウチはどうして寒さに強いの?

野生のセイウチは大きな流氷がたくさん浮かぶ、とても寒い北極の海で暮らしています。ではどうして、セイウチはそんなに寒いところで暮らせるのでしょうか?セイウチの体には、寒さに強くなるための秘密がたくさん隠されています。

1つ目の秘密は分厚い皮下脂肪(ひかしぼう)にあります。大人のセイウチの皮下脂肪はなんと、10センチ以上あるといわれています。脂肪には熱を伝えにくい性質があるため、分厚い皮下脂肪があることによって体の熱を外に逃がさずに保ち続けることができるのです。そのためセイウチは凍るような温度の海に潜っても、約36.7℃の体温を保ち続けられます。

2つ目の秘密は大きな体にあります。生物学には「ベルクマンの法則(ほうそく)」というものがあり、動物は一般的に体が大きければ大きいほど寒さに強いといわれています。大きなコップと小さなコップにお湯を入れた時にお湯が冷めにくいのは大きなコップの方であり、動物の体でも同じようなことが起きると考えるとわかりやすいかもしれません。

3つ目の秘密は体のしくみにあります。セイウチの体には面白いしくみが備わっていて、冷たい水の中にいる間は心拍数(しんぱくすう)を下げて血管を収縮させ、体温が奪われないように調整できるのです。冷たい海の中に潜り続けて血管が収縮すると、セイウチの皮膚は一時的に青白く見えるようになります。

またセイウチは海に潜っている間、心臓や脳、筋肉などの必要な部分に重点的に血液を送る仕組みも持っています。そのためたくさん息継ぎをしなくても、長い時間海に潜り続けられるのです。


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セイウチは1日にどれくらいのエサを食べるの?

水族館で飼育されているセイウチは、1日に25~30Kgものエサを食べています。

野生のセイウチが食べている二枚貝を大量に用意するのは難しいため、水族館ではサンマ、ホッケ、サバ、イカ、アサリ、エビなどを与えていることが多いようです。エサは2~3回に分けて与えますが、パフォーマンスの練習をする時のごほうびにも使います。


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セイウチはどのくらい生きるの?

セイウチの寿命は30~40年ほどだと考えられています。

寿命が長い分成長も遅く、メスは生後4年ほど(遅いものでは10年ほど)、オスは生後15年ほどたってから本格的に繁殖に参加しはじめるといわれています。


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セイウチが人を襲うことはあるの?

セイウチは通常、人を襲うことはないといわれています。

しかしセイウチはとっても好奇心旺盛で、体が大きい動物です。とても大きな牙と強い力を持っているため、セイウチに危害を加えるつもりはなくても、ちょっとしたことで人間が大ケガをしてしまう可能性はあります。


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セイウチにはどんな敵がいるの?

野生におけるセイウチの天敵は、ホッキョクグマ(シロクマ)やシャチだといわれています。しかしホッキョクグマは返り討ちにあうことがあるため、通常は弱っているセイウチや子どものセイウチしか狙いません。

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実はセイウチにとって、1番の敵は私たち人間です。先住民族であるイヌイットの人たちは昔から必要な分だけセイウチを捕まえて、肉を食べたり皮や牙を利用したりしてきました。しかし18世紀になるとヨーロッパやアメリカからハンターがやってきて、セイウチの毛皮や牙、油を利用するために一気にたくさんのセイウチを捕まえてしまいました。その結果セイウチは個体数を一気に減らしてしまい、一部の地域では絶滅してしまったのです。

また地球温暖化の影響でセイウチが子育てや休憩場所にする流氷が減り、セイウチが暮らせる場所がどんどん減ってしまっています。私たちの生活がセイウチの暮らしにも影響することを忘れずに、環境のためにできることを考えていきたいものです。


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セイウチの種類

・タイヘイヨウセイウチ
・タイセイヨウセイウチ


参考文献

D.W. マクドナルド(1986年)『動物大百科2 海生哺乳類』平凡社

スミソニアン協会(2017年)『驚くべき世界の野生動物生態図鑑』日東書院本社

伊豆・三津シーパラダイス「みとしーの動物たち」
http://www.izuhakone.co.jp/seapara/creatures/index.html/

伊勢シーパラダイス「動物のご紹介」
https://ise-seaparadise.com/information/

ナショナルジオグラフィック「動物大図鑑 セイウチ」
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20141218/428855/

ナショナルジオグラフィック「ちょっと意外な、セイウチ」
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20131122/374590/

ナショナルジオグラフィック「ナショジオクイズ 潜水中のセイウチにあらわれる、ある特徴とは?」
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20131218/377465/

鳥羽水族館「飼育日記 いっぱい食べる君が好き」
https://diary.aquarium.co.jp/archives/41042

鳥羽水族館「TSA No.69 2016」
https://www.aquarium.co.jp/more/pdf/69.pdf

どうぶつのくに.net「vol2.セイウチの子育て」
http://doubutsu-no-kuni.net/special/episode12/p2.html

コトバンク「セイウチ(海象)」
https://kotobank.jp/word/セイウチ(海象)-1178591

ちびむすドリル「すいぞくかんクイズ セイウチ」
https://happylilac.net/quiz_aquarium30-ans.pdf

じゃらんニュース「<水族館クイズ>アシカ、アザラシ、トド、オットセイ…海獣の見分け方知ってる?」
https://www.jalan.net/news/article/458195/

アイキャッチ画像
https://unsplash.com/photos/h13Y8vyIXNU