アホウドリ
アホウドリ
アホウドリ
みなさんは誰かに「アホ」と言われた経験はありますか? 「アホか」などのツッコミでよく耳にしますよね。ですが言われ方によっては嫌な場合もあるかもしれません。 そんな「アホ」が名前に入っていて長い間呼ばれているのが「アホウドリ」です。 なぜアホウドリという名前になったのでしょうか。そんな由来も含めてアホウドリを紹介していきます。
アホウドリ 基本情報
鳥綱(ちょうこう)ミズナギドリ目アホウドリ科アホウドリ属
全長:84〜100cm(翼を広げた場合:190〜240cm)
体重:3.3〜5.3kg
アホウドリは繁殖(はんしょく)の時期以外は北太平洋の海の上で生活しています。冬が近づくと日本の近くの島に渡ってきて過ごします。
全身の羽は白く翼が黒くなっており、飛ぶことのできる鳥の中で最大級の大きさをしています。大きい羽を羽ばたかせずに大空を滑るように飛んでいる姿はとても勇ましく、そして美しいのです。
ヒナの時期は羽が黒色や灰色になっていますが大きくなるにつれて白い羽に変わります。
アホウドリ Q&A
アホウドリの名前の由来は?
さて、やはり気になるのはアホウドリの名前の由来ですよね。どうしてこんな名前になったのでしょうか。
それは「アホ」だからです。人間が近づいてきても特に警戒(けいかい)することもなく、危険だと思ったとしても歩くのが遅いために簡単に捕まえることができてしまうのです。仲間が近くで捕まえられていたとしても逃げないほどに警戒心(けいかいしん)がなく、ゆっくりとした性格のようです。
地域によっては「ばかどり(馬鹿鳥)」とも呼ばれているそうですが、散々な言われようですよね。
そう思ったのは私たちだけではありません。
「アホウドリ」という名前はひどい名前だとして、違う名前に変えようという活動もされています。その名前の候補が「オキノタユウ(沖の太夫・沖の大夫)」です。この名前は山口県の漁師たちが実際に呼んでいるのですがその意味は「沖に住む美しい鳥・立派な鳥・神々しい鳥」という意味があるそうです。
オキノタユウの方が呼ぶ側の私たちも気持ちが良いですよね。
他の地域では「らい」「らいのとり」や「とうくろう」とも呼ばれているそうです。
鳥だけではありませんが、動物は私たち人間と共存していく生き物です。呼ぶ側も呼ばれる側も心地の良い名前になってくれることを願っています。
アホウドリはどうしてそこに住んでいるの?
アホウドリは繁殖(はんしょく)の時期以外はずっと海の上で暮らしています。そうです。起きてから寝るまで一日中ずっと海の上にいるのです。1回の飛行でなんと数百キロ、数千キロをも飛ぶことができるというから驚きです。
秋になると繁殖(はんしょく)をするために日本の南にある無人島に渡ってきて集団で過ごし、冬になると繁殖(はんしょく)をします。日本で繁殖(はんしょく)をするために帰ってきてくれるのは嬉しいですね。
アホウドリは何を食べているの?
アホウドリは海鳥なので魚やイカ、オキアミなどを食べています。海面上に浮かんできた魚の死骸(しがい)や、他の鳥が落としていった魚などもアホウドリのエサになります。
ですが海の動物ばかりを食べていると塩分を摂り過ぎてしまいます。身体に影響はないのでしょうか。
塩類線(えんるいせん)と呼ばれる部分が鼻の付け根からくちばしの先に向かってついており、そこから余分な塩分を出すことができるのです。人間にもそんな部分があったらいいなと思ってしまいますね。
アホウドリはどうやって飛んでいるの?
アホウドリはとても大きいので翼の力だけで羽ばたいて飛ぶことができません。飛行機のように助走をつけて飛ぶ必要があります。その時、地形や風を利用して飛んでいきます。
飛んでいる最中には「ダイナミック・ソアリング」という技法を使って飛んでいます。「ダイナミック・ソアリング」とは風を使った飛び方で、風上に向かって飛び、追い風で風下に進路を変更し安定した気流の中で飛ぶというものです。海面すれすれを飛んでいたかと思うと、急に海を離れた飛び方をしてまた海面の上に戻ってくるというような飛び方で、アホウドリは長く飛び続けることができるのです。
風を上手に使った飛び方で、飛行機の専門家もその飛び方を研究しているほどだそうです。
アホウドリはどうやって子育てしているの?
アホウドリが繁殖(はんしょく)しているのは日本の南にある無人島、その名も「鳥島(とりしま)」です。秋になると鳥島にやってきて繁殖(はんしょく)を行います。
アホウドリは一夫一婦制(いっぷいっさいせい)なので生涯を添い遂げる相手を慎重に選んで求愛します。首を伸ばしてくちばしを鳴らす求愛行動を取りますが、これを「クラッタリング」と言います。
無事に結ばれて卵を産むのですが、アホウドリは1回の繁殖(はんしょく)で1つの卵しか産みません。その1つの卵を約65日間、お父さんとお母さんで交互に暖めて、無事に孵化(ふか)してくるのを待ちます。
孵化(ふか)したヒナを夫婦で大事に大事に育てていきます、と、言いたいところですが、親はヒナのエサを探しに出ると数日帰って来ません。その間ヒナは喉が渇いても、お腹が空いても我慢しなければならないのです。親は鳥島から遠く離れた場所でエサを調達します。我が子に良いものを食べさせたい、たくさん持って帰ってやりたいという思いがあるのかもしれません。そして子どもを可愛がるだけではなく、試練を与えて成長させようとも思っているのかもしれません。その証拠にヒナが成長し巣立つ前には、なんと親よりも体重が重くなっているのです。やはり大事に大事に育てられていたんですね。
4月の下旬になると、独り立ちできるまでに成長します。親は子どもよりも先に鳥島から飛び立っていきます。もう1人でも大丈夫だねとでも言うように。先ほどもお話しした通り、この時子どもは親よりも体重が重いので、何日かエサを食べないようにして少し体重を軽くしてから飛び立っていきます。
巣立ちから3〜5年は繁殖(はんしょく)しないのでその間は秋になっても鳥島には帰って来ません。どんな日でも1年中海の上で過ごすことになります。巣立ちから1年で繁殖(はんしょく)する鳥もいる中、3〜5年というのは鳥の中では長い方なので、ゆっくり時間をかけて夫婦になる相手を探しているのが分かりますね。
アホウドリの寿命は?
私たち人間に比べて、動物は寿命が短い印象があるかと思います。鳥も例外ではありません。ですがアホウドリは比較的寿命が長く、66歳まで生きたアホウドリがいるという記録が残っているのです。おじいちゃんやおばあちゃんになったアホウドリも見てみたいですね。
アホウドリは絶滅(ぜつめつ)したって本当?
アホウドリの羽毛はとても上質で、その羽毛を取るために乱獲(らんかく)されていました。アホウドリが狙われてしまったのは、大きい鳥なのでたくさん羽毛が取れるという理由もあるのですが、一番の理由はその性格です。警戒心(けいかいしん)が少なく、人間が近寄っても逃げないことから狙われてしまいました。また、すぐに飛ぶこともできないので逃げたくても逃げられないのです。
1886年、明治の実業家である玉置半右衛門(たまおきはんえもん)はアホウドリに目をつけ、鳥島に玉置商会を設立します。島には300人もの人が住み、日々アホウドリの乱獲(らんかく)を行なっていたのです。小学校や鉄道も設置されていたそうで、もはや一つの島国になっていました。
アホウドリは一体どんな目的で乱獲(らんかく)されていたのでしょうか。
それは輸出するための乱獲(らんかく)でした。アホウドリは主に羽毛布団や枕などに使われ輸出されていました。アホウドリの羽毛は、他の鳥よりも上質だったために高値で取引されていたそうなので、味を占めたのでしょうね。
1910年、羽毛の貿易が禁止されました。つまり、外国に羽毛布団や枕を輸出することは出来なくなったのです。これで終わると思いきや、日本国内の流通にシフトチェンジし、乱獲(らんかく)は続けられてしまいました。
その結果、計630万羽ものアホウドリが乱獲(らんかく)されたと推定されています。
1930年に、絶滅危惧種(ぜつめつきぐしゅ)や希少種(きしょうしゅ)の鳥類の保護に関する目的を行なっている、山階鳥類研究所の山階芳麿(やましな よしまろ)が鳥島に調査に入った際2000羽ほどになっていたという記録が残っているそうです。
そして1939年、アホウドリにとってまたもや悲しい事態が起こります。
それは鳥島の噴火です。これによりアホウドリは絶滅(ぜつめつ)したと考えられ、絶滅宣言(ぜつめつせんげん)が発表されました。
読んでいて悲しい気持ちになったり、もしかしたら読みたくないと思ってしまった方々もいるかもしれません。ですが歴史を知ることによって、こんなことは二度と起きてはいけない、してはいけないと思う心が動物の保護につながっていくのかもしれませんね。
アホウドリは復活したの?
アホウドリは鳥島の変化によって発見されます。
第二次戦争後、鳥島は台風観測の基地として、気象台の測候所(そっこうじょ)が置かれることになりました。
1951年、測候所(そっこうじょ)のスタッフが見回りをしているときに、ごく少数のアホウドリを発見しました。アホウドリは絶滅(ぜつめつ)してはいなかったのです。
発見した測候所(そっこうじょ)によって監視と保護を行なっていきました。
ですがまた悲しい事態が起こってしまいます。
鳥島に地震が起こったのです。そのため測候所(そっこうじょ)は閉鎖(へいさ)され、アホウドリの保護も休止せざるを得ませんでした。
再発見されたとは言ってもごく少数です。保護をしてあげなければ今度こそ絶滅(ぜつめつ)してしまうかもしれないのです。アホウドリの身にこれ以上悲しい出来事が起こってほしくないですね。
アホウドリはどうやって数を増やしたの?
1976年、アホウドリの保護が再開されました。
どのようにしてアホウドリを守っていったのでしょうか。
まず、アホウドリが繁殖(はんしょく)していたのは鳥島の南東側、燕崎(つばめざき)でしたが、ここは傾斜が急で常に土砂が落ちてくるため、それにヒナ鳥や卵が巻き込まれて落ちてしまったり、土砂に埋まったりして思うように繁殖率(はんしょくりつ)が上がっていませんでした。
そこで島の反対側である初寝崎(はつねざき)でも繁殖(はんしょく)をさせようと考えたのです。初寝崎(はつねざき)は傾斜も緩やかなので燕崎(つばめざき)よりも事故に巻き込まれることはないかもしれません。
理由はもう一つ。今までのことを思い出してみると、アホウドリは自然の脅威(きょうい)に何度もさらされています。鳥島は火山の噴火が起こる島なので、噴火が起こったとしても繁殖(はんしょく)の場所が2つあればどちらかは残るのではないかと、生き残る確率が高いのではないかと考えたのです。
そこでデコイ作戦を実行します。デコイとは鳥の模型のことです。アホウドリの実物大のデコイを初寝崎(はつねざき)に置き、仲間がいると思わせる作戦に出たのです。
いやいや、そんなこと信じるわけがないでしょう、と思っていますよね。
デコイ作戦を始めて4年後、1995年に初寝崎(はつねざき)で1つの卵が産まれ、翌年には巣立っていきました。
なんとデコイ作戦は成功したのです。
これを皮切りにどんどん巣立っていき、2006年、13羽のヒナが巣立っていくのが確認されました。
現在は世界の中でも、鳥島や尖閣諸島(せんかくしょとう)、小笠原諸島(おがさわらしょとう)でしか繁殖(はんしょく)は確認されていませんが、2018年の調査では5165羽にまで増えていると推定されました。
まだまだ少ないかもしれませんが、一時は絶滅(ぜつめつ)したと思われていたアホウドリがここまで増えたことは、絶滅(ぜつめつ)させてはいけないと動いた人間たちと、アホウドリの努力の賜物(たまもの)ですね。
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アホウドリ 種類
アホウドリは長い間、1種類しかいないと考えられて来ました。ですが最近の発表で2種類いることがわかったのです。
鳥島と尖閣諸島(せんかくしょとう)のアホウドリではくちばしの形や、体の大きさに違いがあるのです。それだけではなくDNAから違うことが分かったそうです。
これからも研究は続いていくと思われるので新たな発見に期待しますね。
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アホウドリ 参考文献
- Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/アホウドリ
- 公益財団法人 山階鳥類研究所 アホウドリってどんな鳥? https://www.yamashina.or.jp/hp/yomimono/albatross/01donnatori.html
- 公益財団法人 山階鳥類研究所 鳥島とアホウドリの歴史 https://www.yamashina.or.jp/hp/yomimono/albatross/02rekishi.html
- 公益財団法人 山階鳥類研究所 鳥島デコイ作戦 https://www.yamashina.or.jp/hp/yomimono/albatross/03decoi.html
- サントリーの愛鳥活動 https://www.suntory.co.jp/eco/birds/encyclopedia/detail/1379.html
- J-WAVENEWS https://news.j-wave.co.jp/2016/04/post-1359.html
- ことばマガジン http://www.asahi.com/special/kotoba/archive2015/danwa/2014110100001.html
- JT生命誌研究館 アホウドリと僕の42年間 https://brh.co.jp/s_library/interview/98/
- NATIONAL GEOGRAPHIC アホウドリに学ぶ未来の航空技術 https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/6711/
- 平成25年度 日本大学理工学部 学術講演会論文集 ダイナミックソアリングに関する研究 https://www.cst.nihon-u.ac.jp/research/gakujutu/57/pdf/K7-94.pdf
- 海うらら 海洋生物観察記 http://www.bs.s.u-tokyo.ac.jp/~naibunpi/Umi-urara/Albatross.pdf
- 公益財団法人 山階鳥類研究所 〜翼にたくす地球の未来〜 https://www.yamashina.or.jp/
- Science Portal 科学技術の最新情報サイト「サイエンスポータル」 https://scienceportal.jst.go.jp/gateway/clip/20201201_g01/
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