サイガ
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あなたはサイガという、とても特徴的な大きな鼻を持った草食動物を知っていますか? サイガは独自の進化を遂げたことで過酷な環境を何万年も生き抜いてきた、不思議で力強い動物です。 しかし一度見たら忘れられない特徴的な顔をしているにもかかわらず、非常に知名度が低く、知っている人が極端に少ない動物でもあります。 この記事でサイガにはどんな特徴や秘密があるのか、一緒にその歴史や暮らしをのぞいていきましょう!
サイガ 基本情報
哺乳綱(ほにゅうこう)鯨偶蹄目(くじらぐうていもく)-ウシ科-サイガ属
体長 108〜150cm 体重 オス・30~50Kg、メス・21~40Kg
サイガは中央アジア(カザフスタン、ロシア、ウズベキスタン、モンゴルなど)の草原や砂漠に生息する、ウシ科サイガ属に属する草食動物です。サイガ属は、サイガとモンゴルサイガの2亜種のみで構成されています。サイガの体の色は季節によって異なり、夏は全身が黄褐色で顔や腹に白色が入り、冬は全身の色が白っぽくなります。
サイガ最大の特徴は、顔の大部分を覆う大きな鼻です。そのゾウの鼻を縮めたような、まるでホースのように長くて大きな鼻は柔らかくてよく動きます。ツノはオスにだけ生え、長さは20~40cmほどで上に向かってやや湾曲して生えます。
サイガは生後1年ほどで性成熟を迎え、繁殖ができるようになります。サイガの妊娠期間は約150日で、メスは通常1回に1~3頭(通常2頭)の赤ちゃんを産みます。非常に繁殖力が強く、10年生きると20頭ほどの子どもを産むそうです。
サイガ Q&A
サイガの名前の由来は何?
ところでサイガという名前には、どんな意味があるのでしょうか?
裏付けとなる資料は見つけられませんでしたが、サイガという名前はロシア語で“セーム革の1種”を意味する単語「sajgák」が語源という説があるようです。
なおサイガは英語で「Saiga」、学名は「Saiga tatarica」と表現されます。日本語では別名「オオハナレイヨウ」や「オオハナカモシカ」と呼ばれることもあります。
サイガはどうしてそこに住んでいるの?
サイガは中央アジア(カザフスタン、ロシア、ウズベキスタン、モンゴルなど)に分布しています。
サイガの先祖は氷河期に分化して中央アジア一帯で爆発的に繁殖し、かつてはヨーロッパのブリテン諸島から北アメリカのユーコンにかかる、非常に広い範囲に生息していたと考えられています。20世紀に入っても200万頭をこえる数が生息していましたが、人間による狩猟圧や環境破壊などの理由により、年々生息数は減り、生息地も狭まってしまいました。
サイガが中央アジアに生息している理由ははっきりとわかりませんが、草原や砂漠で暮らすために適した進化ができたことも理由の1つだと考えられます。サイガは特殊な機能を備えた鼻、最大時速90kmほどで5~10分ほど走って天敵から逃げるスピードとスタミナを持ち、身を隠すところがほとんどない、暑くて寒い過酷な環境でも生き抜いていける力強さを持っています。
サイガは何を食べているの?
サイガは草食性の動物で、草原に生えている植物(イネ科植物やハーブ、木の葉など)や地衣類(ちいるい、コケのこと)などを食べています。
夏の間は比較的涼しい朝と夕方に食べ物を探し、暑くて日差しが強い昼の間は休むことが多いようです。
サイガの鼻はなぜ大きいの?
サイガの特徴といえば一度見たら忘れられないほど大きな鼻ですが、なぜサイガの鼻は大きいのでしょうか?実はサイガの鼻が大きい理由は、サイガが生息する場所に関係があります。
サイガが生息する中央アジアの草原や砂漠は環境が厳しく、夏は気温が40℃をこえ、冬はマイナス30℃を下回ることがあります。そこでサイガは鼻から息を吸い込むことで夏は空気を冷やし、冬は空気を暖め適度な湿度を与えてから肺に取り込むことで体へのダメージを減らしていると考えられています。
またサイガの大きな鼻は、空気清浄機のような役割も果たしています。サイガの群れが乾いた草原や砂漠を走ると、すさまじい砂埃が起こります。そこでサイガは砂埃などを吸い込まずに効率よく呼吸ができるように、鼻を使って空気をきれいにしてから肺に取り込んでいるとされています。
またサイガは鼻から声を出して仲間とコミュニケーションを取ったり、異性にアピールしたりすることもあります。サイガの鼻は現地点で冷暖房に加湿器、空気清浄機に拡声器のような機能を持っていることが判明していますが、今後研究が進んでいくと、さらなる役割が発見されるかもしれません。
サイガはハーレムを作るって本当?
本当です。
サイガのオスは繁殖期を迎えると、メスをめぐってオス同士で争うようになります。争いの時はまず鼻から大きなうなり声を上げ、自分の大きさや強さを主張します。うなり声で相手のオスが引かない場合はツノを使い、時にはどちらかが死んでしまうまで激しく争います。
争いに勝ったオスは30~50頭ものメスを率いて、ハーレムを作って子作りに励みます。しかしハーレムを率いるオスは繁殖期に持てる力をほとんど使い果たしてしまうため、その後の死亡率が非常に高くなるそうです。
サイガのツノは薬になるって本当?
本当です。サイガのツノは「レイヨウカク(羚羊角)」という名前で、漢方薬の原料として使われています。
レイヨウカクは鎮静作用があり、神経の緊張を和らげるとされて多くの漢方薬に配合されてきました。実際に日本国内で購入できる漢方薬にも配合されているため、知らず知らずのうちに口にしたことがある人もいるかもしれません。
しかしサイガのツノはオスにしか生えないことから、ツノを目的に乱獲された結果、野生のサイガはオスとメスのバランスが大幅に崩れてしまいました。そしてオスとメスのバランスが崩れたことに加え、さまざまな理由からサイガが絶滅してしまう可能性が高まってしまったのです。その結果野生のサイガの採取・商業輸出規制が強化され、レイヨウカクを新たに入手することが難しくなりました。
現在ではレイヨウカクを水牛のツノ、「スイギュウカク(水牛角)」で代用しようという動きが高まっています。
サイガが大量死してしまったことがあるって本当?
本当です。
2015年の春、カザフスタンでは20万頭に上るサイガが謎の死を遂げてしまいました。当初は未知の伝染病によるものではないか、人為的に毒殺されたのではないかなどさまざまな考察が飛び交ったものの、大量死の原因はわかりませんでした。
その後2018年になり、ようやくサイガが大量死した理由が判明しました。20万頭ものサイガを死に至らしめたのは、なんともともとサイガの特徴である大きな鼻に存在する「パスツレラ・ムルトシダ」という細菌だったのです。この細菌が数年続いた高温多湿の異常気象によって必要以上に増殖してしまい、その結果サイガの体が耐えきれなくなって出血性敗血症を起こし、死んでしまったものと考えられています。
サイガはペットとして飼えるの?
ところで、個人がペットとしてサイガを飼うことはできるのでしょうか?
サイガはワシントン条約において、“必ずしも絶滅のおそれはないが取引を規制しなければ絶滅の恐れがあるもの“として「附属書II(ふぞくしょ)」に掲載されています。
付属書Ⅱに掲載されている動物は本来条件があるものの、商業目的で取引することが可能です。しかしサイガに関しては付属書Ⅱに掲載されていますが、2019年8月に行われたワシントン条約第18回条約国会議において「商業目的のための野生標本の輸出割当をゼロにすること」が決まっており、基本的に商業目的での取引はできません。
そのためサイガをペットとして飼うために、輸入すること自体がほぼ不可能だと考えられます。
サイガが見られる動物園はあるの?
残念ながら現在国内において、サイガを飼育展示している動物園はありません。またサイガの保全状況を考えると、今後日本の動物園にやってくる可能性は限りなく低いものと考えられます。
なおかつて三重県にあった「日本カモシカセンター」という施設では、「ロシアン」という名称のサイガが飼育されていたそうです。残念ながらロシアンは死亡し、日本カモシカセンターは2006年に閉館してしまいましたが、ロシアンの標本は同じく三重県の「三重県総合博物館」に収蔵されています。
ちなみに海外に目を向けてみてもサイガを飼育している動物園は数えるほどしかありませんが、現在はロシアの「モスクワ動物園」で飼育されているようです。かつてはアメリカの「サンディエゴ動物園」やドイツの「ケルン動物園」でも飼育されていて、特にサンディエゴ動物園では100頭をこえる仔が産まれた実績があるようです。
サイガはどのくらい生きるの?
サイガの寿命に関する正確な情報はありませんが、おおよそ10~12年ほどではないかと考えられています。
ただし過酷な環境に生息していること、そして天敵が多いことから平均寿命は5年程度なのではないかと考える研究者もいるようです。
サイガにはどんな敵がいるの?
野生におけるサイガの天敵は、オオカミやキツネ、ワシをはじめとした猛禽類などの肉食動物です。特に生まれたばかりの子どもはこれらの肉食動物に狙われ、襲われることが多いといわれています。
しかしサイガにとって、最大の天敵は私たち人間です。かつてサイガの生息数は200万頭をこえていたと考えられていますが、肉や皮、ツノを取るために乱獲されてしまい、大きく数を減らしてしまいました。特にソビエト連邦崩壊前後から密猟と環境の破壊が急速に進み、その生息数は95%も減少し、絶滅が危ぶまれる状態になってしまったのです。
野生におけるサイガの状況は安泰とはいえませんが、国際的にサイガを保護しようという動きが高まっています。「サイガ保護同盟(SCA)」や「カザフスタン生物多様性保全協会」といった自然保護団体やNGO、研究者が立ち上がり、保護区域を設定する、中央アジアの人々にサイガに関する教育を行なう、密猟の取り締まりを強化するといった取り組みが行われています。 なおサイガは1995年にワシントン条約の付属書Ⅱに、2002年にはIUCNのレッドリストにおいて“ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの”である「CR(近絶滅種)」に分類されています。
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サイガ 種類
・サイガ Saiga tatarica tatarica ・モンゴルサイガ Saiga borealis mongolica
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サイガ 参考文献
- 環境省「ワシントン条約第18回締約国会議の結果概要について」 https://www.env.go.jp/press/107111.html
- 三重県総合博物館「所蔵資料検索 サイガ」 https://www.bunka.pref.mie.lg.jp/MieMu/da/detail?mngnum=730
- ナショナルジオグラフィック「20万頭ものサイガ大量死、原因は細菌の増殖だった」 https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/013100045/
- ナショナルジオグラフィック「絶滅危惧種サイガが大量死、生息数が半減」 https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/15/b/110600049/
- 鳥取大学乾燥地研究センター「乾燥地の動植物」 https://www.alrc.tottori-u.ac.jp/japanese/sabaku_hakase/sabaku03.html
- azANIMALS「Saiga」 https://a-z-animals.com/animals/saiga/
- San Diego Zoo Wildlife Alliance「Saiga」 https://animals.sandiegozoo.org/animals/saiga
- Science Blog「Saga of the Saiga」 https://science.sandiegozoo.org/science-blog/saga-saiga
- MONTSAME「WWFモンゴルのガントルガ生物学博士: モンゴルサイガの7割が双子出産」 https://montsame.mn/jp/read/226592
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