アンコウ

出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Der_Seeteufel.jpg

「深海魚」と聞いて、イメージする魚は何でしょうか。深海魚の種類や名前を知らない人がほとんどだと思いますが、アンコウを思い浮かべる人が少なくないはず。
アンコウは、グロテスクなフォルムを持っています。日本では食用にされるほどメジャーな魚でもありますが、種としての生態を知っている人は少ないのではないでしょうか。
そこで今回は、食用にもなる身近な深海魚であるアンコウについて、詳しく見てみましょう!
なお、日本でアンコウといえば、ホンアンコウ(別名:キアンコウ)とクツアンコウ(別名:アンコウ)を指します。本記事では、特別な記載がない限り、クツアンコウを取り上げます。

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〜基本情報〜

アンコウ目アンコウ亜目アンコウ科アンコウ属

体長:40cm前後

アンコウは世界中に分布し、東シナ海や西太平洋、インド洋にも生息しています。また、日本では北海道以南の各地に生息し、見かけることは珍しくありません。

パッと見た感じでは魚らしからぬ風貌(ふうぼう)で、グロテスクに感じる人もいるのではないでしょうか。口が大きく、発達した歯を持っています。歯は長くて鋭く、内側に向かって生えています。これは捕らえた獲物を逃がさない、弁(べん)の役割を持っているからです。

また、口だけではなく食道も広いので、エサを捕食するときは一気に丸呑みします。そのため大きな頭部を持っています。しかし、体は「大きい」という表現より、「広い」という表現がピッタリです。全体的に平べったいのは、砂や隙間(すきま)に紛れて獲物を捕食しやすくするためでしょう。

アンコウは深海に生息しているため、視覚はあまり発達していません。一方で、嗅覚(きゅうかく)を司る器官は発達しており、特にオスはメスの2〜3倍強いです。

出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Cavité_buccale_d’_une_baudroie_commune.JPG

腎臓に特徴があり、尿細管(にょうさいかん)を持っているものの、血液中の老廃物(ろうはいぶつ)をろ過する糸球体(しきゅうたい)は成長につれ徐々に退化します。一般的な魚類の尿は、糸球体(しきゅうたい)によるろ過と尿細管(にょうさいかん)の再吸収によってつくられますが、アンコウは尿細管(にょうさいかん)の分泌物(ぶんぴつぶつ)だけが尿として排出されます。

出典:https://www.pexels.com/ja-jp/photo/10648935/

続いて生態をみてみましょう。

基本的にアンコウは、水深30〜600メートルほどの深海に生息しています。しかし、高温期には浅い海へ向かう季節回遊(きせつかいゆう)を行います。ただ、規模はそれほど大きくありません。

泳ぐのは苦手なので、外敵の存在を確認したときは、逃げずに身を隠します。砂煙を巻き上げて、平べったい体を砂の中に隠してしまうのです。

アンコウの種類の多くは、オスよりもメスの方が強く育ちます。成長が早く、体も大きいうえに、寿命も長いのです。アンコウ科の種類によっては、オスがメスに同化したり捕食されたりするケースもあります。オスにとってはもの悲しい結末で、アンコウ社会の独特さがうかがえますね。

出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:SBNMS – monkfish blends against the sand (27172146901).jpg

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アンコウのQ&A

アンコウの名前の由来は何?

アンコウの名前の由来は諸説ありますが、 正しいものはどれかはっきりしていません。

それぞれの説を簡単に紹介します。

  • 赤魚:体色から。スーパーで流通している「赤魚」と関連性はない。
  • 安居(あんきょ):岩穴にじっとしている様子から。
  • 顎(あご):発達した歯と巨大な顎から。
  • 安康(あんこう):砂に紛れてのんびりとエサを待つ姿から。
  • 暗愚(あんぐ):動きが遅く、見た目がぶよぶよしているから。
  • アンコ、アンゴー:千葉県の方言でヒキガエルのこと。昔はカエルと混同されていたと言われる。

アンコウの姿が特徴的なので、見た目から連想されているものが多く見られます。

また、アンコウを漢字で書くと「鮟鱇(あんこう)」となり、安康(あんこう)にさかなへんをつけたものです。

このように多くの説があるアンコウですが、江戸時代の時点ですでに名前の由来が不明だったとのことです。アンコウが初めて文献に登場するのは 室町時代の「精進魚類物語」で、 擬人化した魚や鳥が戦う平家物語のパロディー作品です。

見た目が面白いのは、今も昔もエンターテインメントになるのかもしれませんね。

出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Monkfish_7,500Yen_(4375370516).jpg

アンコウは魚を釣るって本当?

アンコウは魚を釣る魚として有名です。アンコウの最大の特徴は口の上にあるひらひらした器官で、 疑似餌(ぎじえ)の役割を果たします。

アンコウは泳ぎがうまくなく、エサとなる魚を追い回しても逃げられてしまいます。そのため、アンコウは追いかけるのを諦めて、エサを釣り上げる習性を会得しました。

体を 海底や岩の隙間(すきま)に潜めて、疑似餌(ぎじえ)をゆっくりと動かします。おびき寄せられたものはアンコウと知らず近づき、あっという間に捕食されてしまいます。その捕食速度は、普段のアンコウの様子からは考えられないほどの速さです。

さらに、チョウチンアンコウという種類は、 疑似餌が発光するので誘引(ゆういん)の精度が上がります。アンコウよりも、魚釣りがうまいと言えるかもしれません。

また、アンコウの英名は「Angler fish」といい、「釣りをする魚」という意味です。

待ち伏せしてエサを捕食する姿は、魚界の太公望(たいこうぼう:釣り好きの人)ですね。

出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Baudroie_commune.jpg

アンコウは何を食べているの?

アンコウは肉食性で、小魚やプランクトン、イカ、エビなどを捕食します。ただ、これらはほんの一例で、種類によっては小さなサメやウニなども捕食するようです。

食欲が強く、一度に体重の3分の1余りの量を食べることが確認されています。

また、まれに水面に出て、 海鳥を捕食することもあります。解体されたアンコウの胃の中に、 カモメやペンギンの姿が確認されたこともありました。

食に対して非常に貪欲ですが、種類によっては好みがあり、硬いものやとげのあるものは避ける場合もあります。

のんびりした動きで油断させて一気に捕食するので、 捕食される側にとっては恐ろしいハンターと言えそうです。

出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Blackfin_goosefish_(Lophius_gastrophysus).jpg

アンコウに近い種類はいるの?

アンコウにはかなりの種類があるので、 近縁種(きんえんしゅ)も存在します。日本で アンコウと呼ばれる種類は、 アンコウのほかにキアンコウがいます。ここではキアンコウについて、簡単に紹介します。

日本でアンコウとキアンコウが有名なのは、食用にされているからです。特によく見られるのはキアンコウで、市場ではあまり区別されていません。

ただ、大きさはかなり違い、アンコウは約40センチ程度なのに対し、キアンコウは1.5メートルほどあります。

また、アンコウは黒いですがキアンコウは黄褐色(おうかっしょく)です。

生態や食性はあまり変わらず、待ち伏せするスタイルももちろんそのままです。

上から見たときに楽器で例えられることがあり、アンコウはバンジョー、キアンコウは琵琶(びわ)に似ていると言われています。

アンコウの天敵は?

アンコウの最大の天敵は、おそらく私たち人間、それも日本人です。日本ではアンコウを食用として用い、しかも捨てる場所がない食材というほどに余すことなく食べます。

アンコウのさばき方は独特で、地域の名物にもなっています。アンコウはぬめりが強く、身が柔らかいため、まな板でさばくのは困難です。特定の地域では、アンコウを頑丈なフックに吊して、回転させながら皮や身をさばきます。

また、青森県の下北半島では、雪中切りといって雪の上でさばく方法があります。保冷効果があり、鮮度が保たれるそうです。

出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Oarai_Anglerfish_Festival_2014,_Cutting_Anglerfish.jpg

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アンコウの種類

  • アンコウ属
    • アンコウ
  • キアンコウ属
    • アメリカアンコウ
    • キアンコウ
    • ニシアンコウ
    • Blackbellied angler
    • Blackfin goosefish
    • Shortspine African angler
    • Devil anglerfish
  • ヒメアンコウ属
    • シモフリハナアンコウ
    • エンドウヒメアンコウ
    • ミノアンコウ
    • ノドグロヒメアンコウ
    • メダマアンコウ
    • ヒメアンコウ
    • アミメヒメアンコウ
    • Lophiodes beroe
    • Lophiodes caulinaris
    • Lophiodes gracilimanus
    • Lophiodes infrabrunneus
    • Lophiodes iwamotoi
    • Lophiodes kempi
    • Lophiodes maculatus
    • Lophiodes miacanthus
    • Lophiodes monodi
    • Lophiodes spilurus
    • Lophiodes triradiatus
  • ダルマアンコウ属
    • ダルマアンコウ
    • Sladenia gardineri
    • Sladenia remiger
    • Sladenia shaefersi

参考文献

Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/アンコウ

ぼうずコンニャクの市場魚介類図鑑
https://www.zukan-bouz.com/syu/アンコウ

umito.
https://umito.maruha-nichiro.co.jp/article34/

おさかなラボ
http://www.iwaki-gyorui.co.jp/osakanalabo/archives/1350

コトバンク
https://kotobank.jp/word/アンコウ-29120

八面六臂
https://hachimenroppi.com/wiki/details/ankou

のん気な魚屋
https://mokuyouichi.com/sakana/sengyo/a/annkou.htm

旬の食材百科
https://foodslink.jp/syokuzaihyakka/syun/fish/ankou5.htm

アイキャッチ画像
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Teufelsfisch_1111.JPG