ハイエナ

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あなたはハイエナという、アフリカやアジアに生息している不思議な体型の野生動物を知っていますか?
テレビ番組やディズニー映画「ライオンキング」に登場することから、名前や見た目を知っている人も多いことでしょう。
そしてその名前を聞くと「不気味」や「意地悪」といった、悪いイメージを連想する人も多いのではないでしょうか。
ハイエナは本当に不気味で意地悪な動物なのでしょうか?この記事でハイエナにはどんな特徴や秘密があるのか、一緒にのぞいていきましょう!


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~基本情報~

哺乳綱-食肉目-ハイエナ科

ブチハイエナ
体長86~150cm 体重50~90kg

「ハイエナ」とは、食肉目ハイエナ科に分類される4種類の動物の総称です。彼らはオオカミやリカオンなどのイヌの仲間に似ていますが、イヌよりもネコ(特に原始的なネコとされるジャコウネコ)に近い動物だとされています。多くの人が「ハイエナ」といわれて想像するのはアフリカに生息するぶち模様が特徴の「ブチハイエナ」だと考えられるため、ここではブチハイエナの生態について説明していきます。

ブチハイエナはメスをリーダーとした、「クラン」と呼ばれる30~80頭の群れを作って暮らしています。群れのリーダーは“アルファメス”と呼ばれていて、アルファメスが産んだ最初のメスが次の群れのリーダーになるという決まりがあります。ハイエナの群れの中は順位が厳しく決まっていて、オスはメスよりも立場が下だと決まっています。そのため獲物は順位が高いメスから食べ始め、オスはメスが満腹になってからようやく食事にありつけます。なおブチハイエナはとてもよく鳴くことが知られていて、群れのメンバーは12種類ほどの鳴き声を使ってひんぱんにコミュニケーションを取っています。

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ブチハイエナのオスは生後2~3年、メスは 3~4年ほどで性成熟(せいせいじゅく)を迎えて繁殖ができるようになります。決まった繁殖期はなく1年中繁殖できますが、2~3月にピークを迎える傾向にあるようです。妊娠期間(にんしんきかん)は110日ほどで、1回の出産で1~4頭の子どもを産みます。子育ては母親だけが行いますが、同じ群れのメスは協力しながら同じ巣穴で子どもを育てます。


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ハイエナのQ&A

ハイエナの名前の由来は何?

ハイエナという名前の由来は「ブタ」を意味する古典ギリシア語、「huaina」だと考えられています。その後ラテン語「hyaena」、古典フランス語の「hiene」、中期英語の「hiena」と派生していった結果、現在の「ハイエナ」という名前になったようです。

なおハイエナは現代の英語で「Hyena(ハイエナ)」、漢字では「鬣犬(タテガミイヌ)」と表現されます。そしてブチハイエナは体にぶち模様があることから、シマハイエナは体にしま模様があることから、カッショクハイエナは体の色が褐色であることからその名前が付けられました。

余談ですがハイエナはアフリカやアジアでは数百年前から「墓荒らし」「魔女の馬」といったとても不名誉(ふめいよ)な名前で呼ばれ、嫌われていたそうです。


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ハイエナはどうしてそこに住んでいるの?

ハイエナは全部で4種類に分けられていて、ブチハイエナはサハラ砂漠などの一部地域を除くアフリカ大陸全域に、シマハイエナはアジア(アラビア半島、中東、インド、ネパールにかけて)からアフリカの北部に、カッショクハイエナはアフリカの南部に、そしてアードウルフはアフリカの東部と南部に生息しています。

なぜハイエナがこれらの地域に生息しているのか、その具体的な理由はわかりませんでした。しかし彼らの生息地には草食動物やそれらの動物を食べる肉食動物が多く、群れを維持していくにあたって十分な量の食べ物が手に入る可能性が高い、ということが1つの理由なのではないかと推測されます。

ハイエナは普通に狩りをして捕まえた動物を食べるほか、動物の死肉を食べる腐肉食動物(ふにくしょくどうぶつ、別名スカベンジャー)という顔も持っていて別名「サバンナの掃除人」と呼ばれることもあります。そんな彼らはとても胃酸が強く、他の動物が食べられないような腐った肉でも食べて体調を崩すことなく自分の栄養にしてしまうという、とても面白い特徴を持っています。

実は動物の死体は時間が経つとどんどん腐敗(ふはい)が進んでウジなどの虫が湧き、さまざまな細菌が増えてあらゆる感染症の発生源となります。しかしハイエナやハゲワシなどの腐肉食動物がいれば動物の死体や骨を食べ、害虫や感染症が広がることを防いでくれるのです。死肉を食べる動物は一見すると不気味に見えてしまうかもしれませんが、健全な自然環境を保つためには欠かせない存在ということがわかりますね。


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ハイエナは何を食べているの?

ハイエナは基本的に雑食性の強い肉食性の動物ですが、種類によって食べ物が異なります。

ハイエナの中で一番体が大きいブチハイエナはライオンの食べ残しや死肉(しにく)、ヌーやレイヨウなどの草食動物を主食にしています。その他にも鳥類やは虫類、魚類や昆虫類などを食べることもあります。シマハイエナは群れを作らないため、手に入りやすい小動物や死肉を主食にしています。カッショクハイエナは死肉を主食にしていますが、汁気が多い果実などの植物質もよく食べます。なお動物園ではこれらのハイエナに対して、馬肉や鶏頭(けいとう)、丸鶏(まるどり)を与えているようです。

最後の1種、アードウルフだけは他のハイエナと食べている物が大幅に異なり、シロアリをはじめとした昆虫を主食にしています。彼らは音とにおいを頼りにシロアリを探し出して、一晩に20~30万匹(1~2Kg)ものシロアリを食べるそうです。基本的には1種類のシロアリだけを食べますが、シロアリが足りない時はガやウジなどの昆虫や死肉を食べることもあります。

なおハイエナはどうしても食べる物がなく、極限状態におちいってしまった時は群れのメンバーや子どもを食べる、いわゆる共食いをすることがあるようです。


ハイエナはとっても力が強いって本当?

本当です。
特にブチハイエナは首と肩の筋肉が発達しているためあごの力がとても強く、動物の太い骨や筋を簡単にかみ砕けます。彼らが本気を出せば、なんと鉄の棒も余裕でかみ切れるそうです。

なおブチハイエナの一部の臼歯(きゅうし)は鋭くとがっていて、「骨砕歯(こつさいし)」と呼ばれています。彼らはこの骨砕歯とあごの力を使って大きな動物の骨もハンマーのように砕いて食べ、強い胃酸で溶かして余すことなく栄養にしてしまいます。

ちなみに動物の骨まで食べてしまうブチハイエナのウンチはチョークのように白くて硬く、母乳(ミルク)にはたくさんのカルシウムが含まれているそうです。


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ハイエナはどんな性格なの?

あなたは「ハイエナといえばどんなイメージの動物ですか?」と聞かれたら、どう答えますか?

ライオンから獲物を奪う嫌な動物、死肉を食べる気味の悪い動物、そしてディズニー映画「ライオンキング」に登場する悪役のライオン「スカー」の手下のように意地の悪い動物、といったように「ハイエナ=嫌な動物」というイメージを持ち、そう答える人も少なくないことでしょう。

しかしハイエナはそういったイメージとは裏腹に実はとても仲間思いで、ケガや病気などで弱った仲間がいれば体をなめてキレイにしたり、食べ物を分け与えたりします。ハイエナのように群れを作る肉食動物は少なくありませんが、弱った個体は群れのメンバーが生き残るために切り捨てられてしまうことがほとんどです。厳しい自然の中を生き残るためには残酷にも見える選択をしなければならない時もありますが、そんな中でもハイエナは仲間を思いやる優しさを持っている珍しい動物だといえます。

なお動物園で飼育されているブチハイエナは神経質で臆病(おくびょう)な一面を持っているものの、飼育員の近くに自分から寄ってきたり体を触らせてくれたりと、人なつこくて愛嬌(あいきょう)がある性格の個体も少なくないそうです。


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ハイエナはオスとメスが見分けづらいって本当?

本当です。
ブチハイエナは通常オスよりもメスの方がやや体が大きいのですが、なんとメスにはオスとほぼ見た目が変わらない偽物のペニス(陰茎・いんけい)が付いています。さらにこの偽ペニスには尿道が通っていてオシッコが偽ペニスから出るうえ、偽ペニスの側には偽物の睾丸(こうがん)までついているため、見た目からハイエナの性別を見分けるのは非常に困難です。

ハイエナはメスを中心とした群れを作るため、メスでも攻撃性や闘争心を強くするために男性ホルモンの量が多いといわれています。そのためハイエナの赤ちゃんは母親のおなかの中でたくさんの男性ホルモンを浴びることになり、メスでも外見がオスのようになってしまうそうです。ちなみに交尾の時はメスが一時的に偽ペニスをおなかの中に引っ込めて膣を作らないとオスは絶対に交尾ができない、というメス優位の仕組みになっています。

なおハイエナの赤ちゃんはこの偽ペニスを通り、非常に狭い尿道を引き裂くように産まれてきます。そのためハイエナの出産は他の動物と比べものにならないくらい痛いのではないかと考えられ、実際にハイエナの初産は60%もの確立で死産になるうえ、母親の方も5頭に1頭が出産時の傷が原因で死んでしまうそうです。そして無事に赤ちゃんが産まれたとしても、偽ペニスには大きく痛々しい傷が残ってしまいます。

なぜこれほどの危険を冒してもハイエナのメスがオスのような外見をしているのか、今でもその理由ははっきりわかっていません。


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ハイエナは狩りが得意って本当?

本当です。
ライオンなどの獲物を横取りする、死肉を漁るといったイメージが強いハイエナですが、特にブチハイエナは狩りがとても得意な動物だということがわかっています。

ブチハイエナは非常に頭が良く、群れのメンバー同士で連携をとることによって自分たちよりも体の大きな草食動物を見事に捕まえます。前足が長くて後ろ足が短いというハイエナ独特の体型は長距離走に向いているうえ肺や心臓がとても強いため、彼らはなんと2時間も獲物を追いかけ続けられるそうです。

実はブチハイエナの食べ物の6割以上が自分たちで捕まえた獲物であり、ブチハイエナがライオンの獲物を横取りするよりもライオンがブチハイエナの獲物を横取りする方が多いのではないかといわれています。

なお動物園では箱の中に入ったエサを食べるためにフタにかけたかんぬきを開ける、メスのブチハイエナが男性の飼育員よりも女性の飼育員に厳しい態度を取る、木を枕のように使うといった知的な行動をするところが観察されています。


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ハイエナはペットとして飼えるの?

ところで個人がペットとして、自宅でハイエナを飼うことはできるのでしょうか?

日本の法律においてハイエナは全ての種類が人の命や財産に危険を及ぼす可能性がある、「特定動物(とくていどうぶつ)」に指定されています。令和2年6月1日以降新たに特定動物を愛玩目的(あいがんもくてき・ペットとして飼うこと)で飼うことは全面的に禁止されたため、日本国内においてハイエナをペットとして飼うことはできません。

なおかつてはハイエナの中でも一番体が小さいアードウルフをペットとして飼っていた人もいるようです。しかしアードウルフの食べ物であるシロアリを毎日用意し続けるのは簡単なことではありません。また本来広いなわばりを持ち、広大な土地を群れやペアで駆け回るハイエナを狭いところに繋いで飼うということは、ハイエナ本来の生態を全て無視することになります。ハイエナに限らず、かわいい、かっこいいといった理由で野生動物を飼うことはすすめられません。


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ハイエナはどのくらい生きるの?

ブチハイエナの寿命は野生下で約25年、飼育下では25~35年だといわれています。

同じ肉食動物であるライオンの寿命が野生下で10年・飼育下で20年ほど、ジャッカルの寿命が野生下で7年・飼育下で14年ほどであることから考えても、ハイエナがとても長生きする動物だということがわかります。


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ハイエナにはどんな敵がいるの?

野生のハイエナにはほとんど天敵はいませんが、唯一の天敵はライオンだといわれています。

群れで行動する肉食動物であるハイエナとライオンとは獲物を巡って争うことが多く、お互いに争いの中で命を落としたり、食べるためにケガをしている個体や子どもを殺したりすることがあるようです。

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しかしハイエナにとって、最大の敵は私たち人間です。
今のところブチハイエナとアードウルフが絶滅してしまう可能性は非常に低いとされていますが、シマハイエナとカッショクハイエナは生息地の開発や駆除などで少しずつ生息数を減らしていると考えられています。

ハイエナは時に人や家畜を襲うことがあり、またそのなんともいえない姿勢や鳴き声から不気味だ、邪悪だといったネガティブなイメージを持たれ害獣として駆除されることがあります。その結果残念なことに、ブチハイエナは一部の地域では絶滅してしまいました。


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ハイエナの種類

・ブチハイエナ
・シマハイエナ
・カッショクハイエナ(チャイロハイエナ)
・アードウルフ(ツチオオカミ)


参考文献

今泉 忠明(2007年)『野生イヌの百科』データハウス 

カッショクハイエナ 食べ残しをめぐる壮絶なバトル | ナショジオ
https://www.youtube.com/watch?v=W8CAfwYeYoU

千葉市動物公園「千葉市動物公園の見どころセブン+第37号 特集 意外にかわいいブチハイエナ」
https://www.city.chiba.jp/zoo/guide/documents/midokoros7-37.pdf

DENTAL PLAZA「ふしぎ・ふしぎ 咀嚼と健康 ~その20~ —イヌの歯ネコの歯—」
https://www3.dental-plaza.com/archives/8547

日本科学未来館 科学コミュニケーターブログ「ハイエナの出産は、男性も共感せざるを得ない大変さだ。」
https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20150423post-228.html

ナショナルジオグラフィック「ハイエナの雌に「ペニス」、雌雄どう判別?」
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/022300062/

ナショナルジオグラフィック「不気味でずるい?ハイエナの6つの誤解を解く」
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/061800354/?P=4

那須サファリパーク「ライオン」
https://www.nasusafari.com/book/01.html

静岡市立日本平動物園「スポットガイドだより① 『3月20日 ブチハイエナ』」
https://www.nhdzoo.jp/sp/newspaper/naka.php?newspaper_uid=2100

日本辞典「ハイエナ」
http://www.nihonjiten.com/data/45936.html

札幌市円山動物園「ブチハイエナ」
https://www.city.sapporo.jp/zoo/b_f/b_08/db184.html

札幌市円山動物園「ブチハイエナのペアが韓国大田広域市から入園アニョンハセヨ!」
https://www.city.sapporo.jp/zoo/topics/topics2-350.html

旭化成ホームズ「川口先生のペットコラム おもしろ哺乳動物大百科89(食肉目 ハイエナ科)」
https://www.asahi-kasei.co.jp/hebel/pet/kenkyu/blog/2013.11-2013.01.shtml/

アイキャッチ画像
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