オットセイ
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あなたはオットセイという、アシカに似た海生哺乳類(かいせいほにゅうるい)を知っていますか? 水族館で飼育されていることもありますが、アシカと似ているのでその存在に気づいていない人もいるかもしれません。 そんなオットセイは日本でも見られる動物ですが、実はとても悲しい歴史を持った動物でもあります。 この記事でオットセイにはどんな特徴や秘密があるのか、一緒にのぞいていきましょう!
オットセイ 基本情報
哺乳綱-食肉目-アシカ科
キタオットセイ 体長 オス2.1m メス1.5m 体重 オス270Kg メス50Kg
オットセイはアシカ科に属する海生哺乳類の1種で、大きく分けて北半球に生息するキタオットセイ(1種)と南半球に生息するミナミオットセイ(8種)の2種に分けられています。それぞれの種類によって生態が異なるため、ここではキタオットセイについて説明します。
キタオットセイは日頃は単独もしくは数頭の小さな群れを作って暮らしていますが、繁殖期(はんしょくき)になると1頭のオスが最大40頭のメスを集めて“ハーレム”と呼ばれる大きな群れを作ります。キタオットセイは性別を問わず生後3~7年ほどで性成熟(せいせいじゅく)を迎えますが、オスがハーレムを持てるのは8〜10歳頃だといわれています。メスの妊娠期間(にんしんきかん)は約1年で昨年妊娠した子どもをハーレムの中で産み、出産の数日後には交尾を行います。子育てはメスだけが行い、オスが子育てに関わることはありません。
なおオットセイを含むアシカの仲間は大人になると、オスとメスの見た目が全く違うものになることが知られています。オスはメスよりも体が大きくなり、首の周りにはごわごわとした毛のたてがみが生えます。一方のメスはオスよりも体が小さく、オスとメスの体重差はなんと4倍にもなります。生物学ではこのようにオスとメスの違いを見た目で判断できるものを「性的二形(せいてきにけい)」と呼びます。
オットセイ Q&A
オットセイの名前の由来は何?
オットセイは漢字にすると、「膃肭臍」という非常に難しい文字で表現されます。そんなオットセイの名前の由来には、少し変わった歴史があります。
オットセイはもともとアイヌ語で「onnep(オンネプ・オンネップ)」と呼ばれていました。その後中国にこの言葉が渡って「膃肭(オツドツ)」となり、オットセイのへそ(臍)やその周辺の臓器を使った薬を「膃肭臍(オツドツセイ)」と呼ぶようになったそうです。そしてこの薬が日本に入ってきて「オットセイ」と呼ばれるようになり、動物自体もそのまま「オットセイ」と呼ぶようになったといわれています。
なおオットセイは英語では「Fur seal(ファーシール、毛皮あざらし)」と呼ばれています。
オットセイはどうしてそこに住んでいるの?
オットセイは種類によって生息地が異なりますが、どの種類も海岸沿いや海中に生息しています。オットセイがそれぞれの生息地に分かれているのは、それぞれの生息地にオットセイのエサとなる魚や甲殻類などが豊富に生息しているからだと考えられます。
なおキタオットセイは太平洋の北部やベーリング海、オホーツク海に生息していて、ほとんどの時間を水中で暮らしています。繁殖期になると陸に上がりますが、繁殖期以外は数週間陸に上がらず海の中で過ごすことも少なくありません。実はオットセイは脳を半分ずつ眠らせる「半球睡眠(はんきゅうすいみん)」ができるため、海の上でも体を休めることができるのです。ちなみにイルカやクジラ、アマツバメやカモメなども半球睡眠ができることが知られています。
オットセイは何を食べているの?
オットセイは肉食性の動物で、野生では魚(スケトウダラ、マイワシ、ハダカイワシ類など)や頭足類(とうそくるい・イカやタコのこと)、甲殻類(オキアミやイセエビなど)を食べています。動物園や水族館でも魚を与えていて、アジやイワシ、サンマやニシン、サバなどを与えていることが多いようです。
なお非常にまれなケースですが、オットセイが人間を襲うこともある大型のサメ・ヨシキリザメを襲って食べたという衝撃的な場面が目撃されたこともあります。サメはオットセイの天敵といわれていますが、実はサメの天敵もオットセイなのかもしれません。
オットセイはどんな鳴き声なの?
オットセイはとても声が大きく、さまざまな声で鳴くことが知られています。
動物園や水族館でよく聞く「オウッオウッ」という鳴き声から、「オウーン」という遠吠えのようなおたけびまでさまざまな鳴き声があるため、どこかイヌっぽい鳴き声だと感じる人も多いかもしれません。なおアシカやトドよりも声が甲高いため、動物というよりは怪獣のような鳴き声だと感じる人もいるようです。
オットセイは今も薬の原料として使われているの?
オットセイの名前の由来はオットセイを使った薬だという話をしましたが、実は今もオットセイは薬の原料として使われています。
古くからオスのオットセイ(もしくはアザラシ)の陰茎と睾丸を乾燥させたものは「海狗腎(かいくじん)」と呼ばれ、滋養強壮(じようきょうそう)の効果がある生薬(しょうやく)として使われてきました。今でも市販の滋養強壮系のドリンクに含まれていることがあるので、知らない間にオットセイを食べた(飲んだ)ことがある人もいるかもしれません。
その他にもオットセイの油や筋肉から抽出されたたんぱく質など、さまざまな部位が今も医薬品や健康食品の原料として使われています。
オットセイとアザラシにはどんな違いがあるの?
ところで同じ海に住む哺乳類である、オットセイとアザラシにはどんな違いがあるのでしょうか?
まずこの2種類は分類が異なります。オットセイはオットセイ科、アザラシはアザラシ科に分類されるため、同じ海に住む動物であっても全く違う仲間ということになります。
オットセイとアザラシを見分けたい時は、陸の上にいる時の姿勢に注目してみましょう。オットセイは前脚(まえあし)で自分の体を持ちあげて上体を起こせて、後脚(うしろあし)を前に曲げられます。そのためオットセイは陸上で走れて、足場が悪い海岸線では人間よりも速く移動できます。一方のアザラシは前脚で自分の体を支えて持ち上げられず、後脚を前に曲げられません。そのためアザラシは常に地面にべったりと寝そべっていて、陸上をはって移動します。
またオットセイには三角形の耳たぶがありますが、アザラシには耳たぶがなく耳の所に穴が開いています。
オットセイとアシカにはどんな違いがあるの?
ではオットセイとアシカにはどんな違いがあるのでしょうか?
オットセイとアシカは同じアシカ科の動物で、見た目が非常によく似ています。見分けたい時は体に生えている毛の量に注目してみるとよいでしょう。オットセイは毛皮を利用するために乱獲された歴史があるほど、非常に上質な毛皮をまとっています。オットセイは長い毛1本に対して短い毛が50本、アシカは長い毛1本に対して短い毛が5本ほどしか生えていないそうです。そのためふさふさの毛が生えていたらオットセイ、生えていなければアシカと覚えておくとよいでしょう。
またオットセイもアシカも耳たぶがありますが、オットセイの耳たぶの方がやや大きめです。
オットセイはペットとして飼えるの?
ところで個人がペットとして、それも自宅でオットセイを飼うことはできるのでしょうか?
実はオットセイは明治時代に制定された、「臘虎膃肭獣猟獲取締法(らっこおっとつじゅうりょうかくとりしまりほう)」という難しい名前の法律で保護されています。この法律ではラッコ(臘虎)とオットセイ(膃肭獣)を保護するため、その捕獲や毛皮の加工や販売、所持について規制を行うことが定められています。まだ動物保護という考え方が一般的ではなかった明治時代にこの法律が制定され、今もその効力が続いているところを見ると、ラッコとオットセイの乱獲がいかにすさまじかったのか想像がつきますね。
この法律があるため、オットセイは研究など特別な目的を持った人が農林水産大臣に許可を受けないと捕獲できません。ペット向けで許可が下りるとは考えにくいため、オットセイをペットとして飼うことは不可能だと考えた方がよいでしょう。
オットセイはどのくらい生きるの?
オットセイの寿命は野生下のオスで約15年、メスで約25~30年だと言われています。 オスは繁殖期に起きるオス同士の激しいなわばり争いやハーレムの維持などに体力を使うため、メスよりも寿命が短い傾向にあるようです。
なおオットセイは1頭のオスが最大40頭のメスと群れるため、全てのオスが繁殖に参加できるわけではありません。なわばり争いに負けたオスや年を取ったオスは群れを作って暮らし、繁殖に参加できる機会を虎視眈々(こしたんたん)と狙っています。しかし1回も繁殖に参加できず、生涯を終えるオスも少なくないようです。
オットセイにはどんな敵がいるの?
野生におけるオットセイの天敵は自分よりも大きな体を持つ肉食動物、シャチや大型のサメ(ホオジロザメなど)です。
しかしオットセイにとって一番の敵はシャチでもサメでもなく、実は私たち人間です。 オットセイには質がいい毛皮を取るために、1700年頃から世界中で乱獲されてきたという悲しい歴史があります。そしてグアダルーペオットセイとフェルナンデスオットセイはその後再発見されたものの一度絶滅したと思われるほど数が減り、キタオットセイは19世紀に一度絶滅寸前の状態にまでおちいってしまいました。
1911年になるとオットセイの数が激減(げきげん)したことに危機感を持った国々が協力して「膃肭獣保護条約(おっとせいほごじょうやく)」という条約を制定し、オットセイは国際的に保護されることになりました。ただちに海上におけるオットセイの捕獲が禁止され、1985年には陸上を含めたすべての捕獲行為が禁止されることになったのです。こういった各国の協力によって、キタオットセイは一時約130万頭まで個体数を回復しました。
このような取り組みの結果、オットセイは種をおびやかすほどの狩猟をされることは無くなりました。しかしエサとなる魚が人間による漁や地球温暖化の影響により減少しているため個体数は増えておらず、むしろ一部の地域では減少傾向にあるとされていて、完全に絶滅の危機から脱したとはいえない状況が続いています。そのためキタオットセイやガラパゴスオットセイなどは、今も絶滅危惧種に指定されています。
そんな中北海道ではキタオットセイが猟師の網を食いやぶり、中の魚を食べてしまうという漁業被害も出ています。動物保護と人間の経済活動を両立するのは簡単なことではありませんが、オットセイと人間が上手く共存していく道を見つけたいものですね。
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オットセイ 種類
キタオットセイ属 ・キタオットセイ
ミナミオットセイ属 ・グアダルーペオットセイ ・ミナミアフリカオットセイ ・ミナミアメリカオットセイ ・アナンキョクオットセイ ・ガラパゴスオットセイ ・フェルナンデスオットセイ ・ナンキョクオットセイ ・ニュージーランドオットセイ
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オットセイ 参考文献
- D.W. マクドナルド(1986年)『動物大百科2 海生哺乳類』平凡社
- 新江ノ島水族館「えのすいトリーター日誌 2013/10/12 アシカ入門 4」 https://www.enosui.com/diaryentry.php?eid=02867
- livedoor NEWS「オットセイがサメを捕食 驚きの行動に海洋生物学者たちは困惑」 https://news.livedoor.com/article/detail/9972783/
- 北海道大学 海獣班「オットセイってどんな動物?」 https://hokkaidocean.sakura.ne.jp/research/northernfurseal/
- 毎日新聞「コトバ解説「アシカ」と「オットセイ」と「アザラシ」の違い」 https://mainichi.jp/articles/20110606/mul/00m/040/013000c
- 清田 雅史、米埼 史郎、香山 薫、馬場 徳寿(2011)オットセイの捕獲と取り扱い方法 https://www.jstage.jst.go.jp/article/mammalianscience/51/1/51_1_71/_pdf
- 新江ノ島水族館「えのすいトリーター日記 2020/08/24 この漢字の生き物はなんでしょう ~Final~」 https://www.enosui.com/diaryentry.php?eid=05398
- すみだ水族館「2017.05.03オットセイの鳴き声やアシカとの違いって?魅力徹底解剖!」 https://www.sumida-aquarium.com/column/details/642.html
- アースウォッチ・ジャパン「『アラスカのオットセイ』体験報告書」 https://earthwatch.jp/pj_oversea/pdf/2008alaska_naoki.pdf
- 地方独立行政法人北海道立総合研究機構「試験研究は今 No.878 オットセイ生態把握調査報告」 https://www.hro.or.jp/list/fisheries/marine/att/ima878.pdf
- 桂浜水族館スタッフブログ「オットセイが来た! スタッフやぶ」 https://katurahama-aq.jp/blog/staff/2020/12/22/10641
- ナショナルジオグラフィック「オットセイ」 国立研究開発法人 水産研究・教育機構「おさかなセミナーくしろ2009「北の海のけものたち」」 ナショジオ睡眠「眠りながらも目覚めてる! 半球睡眠とは何か」 https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20141218/428815/
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