エミュー

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突然ですが、「世界で2番目に大きな飛べない鳥は誰でしょう?」と聞かれたらあなたはなんと答えますか?
このクイズの答えは動物園や牧場などでよく飼われている、オーストラリア出身の飛べない鳥「エミュー」です。
飛べない鳥といえばダチョウが有名ですが、ダチョウとエミューにはどんな違いがあるのでしょうか?
エミューにはどんな特徴や秘密があるのか、この記事で一緒にエミューの世界をのぞいていきましょう。



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~基本情報~

鳥綱ヒクイドリ目-ヒクイドリ科

体長1.4~1.9m 体重30~60Kg

エミューはオーストラリアに生息する、世界で2番目に背が高い飛べない鳥の1種です。体の色は灰褐色(はいかっしょく)で目の後ろには耳の穴があり、耳の穴のまわりにはほとんど羽根が生えません。オスとメスでは鳴き声が異なることが知られていて、オスは「グルグル」「グゥアー」という低い声で、メスは「ポンポン」「ポポポン」という太鼓(たいこ)のような声で鳴きます。

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エミューは翼がとても小さいため、他の鳥のように空を飛ぶことができません。その代わりに脚力がとても強く、最大時速65kmものスピードで走り、さらには泳ぐこともできます。そんなエミューは現在地球上にいる動物の中で、歩き方が最も恐竜に近い動物だと考えられています。

エミューは生後1~3年で性成熟(せいせいじゅく)を迎え、繁殖できるようになります。通常野生のエミューは3~6頭の小さな群れを作って暮らしていますが、繁殖期(はんしょくき)になると1頭のオスを中心に2~3頭のメスが集まった群れを作ります。そしてメスは3~4日に1個、合計9~20個もの卵を産みますが、卵を温めることもふ化したヒナの面倒を見ることもしません。エミューの子育ては全てオスの仕事であり、オスは繁殖期の間2か月ほどほぼ何も食べずに子どもを育てます。そのため繁殖期が終わるころになると、オスの体重は元の半分程度に減ってしまうそうです。

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エミューのQ&A

エミューの名前の由来は何?

ところでエミューという、少し変わった名前の由来は何なのでしょうか。実はこの名前はオーストラリアの原住民であるアボリジニの言葉ではなく、「大きな鳥」という意味があるアラビア語の単語“Ema”が由来だと考えられています。

なおエミューは英語では「Emu」、学名は「Dromaius novaehollandiae」と表現します。

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エミューはどうしてそこに住んでいるの?

エミューはオーストラリア全域にある、開けた草原やサバンナに生息しています。

なぜエミューがオーストラリアに生息しているのか、はっきりとした理由はわかりませんでした。しかし恐らく体の大きなエミューが群れで暮らせるだけの食べ物があること、天敵が少ないことなども理由の1つなのではないかと考えられます。

なおエミューはオーストラリアの国鳥(こくちょう)に指定されていて、オーストラリアの国章(こくしょう)にもカンガルーと一緒にその姿が描かれています。国章には“エミューもカンガルーも前にしか進めない動物であることから、新しい国であるオーストラリア(※)がどんどん前へ進んでいけるように”という思いがこめられているそうです。

※オーストラリアは1788年にその歴史が始まり、1901年に正式に「オーストラリア連邦」として成立し今に至っています。

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エミューは何を食べているの?

エミューは雑食性の動物で昆虫や果実、植物の種子や芽、草、花などいろいろなものを食べています。

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動物園でもニワトリ用の配合飼料やコマツナ、白菜、サツマイモ、リンゴ、バナナなどいろいろなものを食べているようです。



エミューはどんな性格なの?

エミューの性格は大人しく、おだやかで人なつっこいといわれています。

なお同じヒクイドリ科の鳥である「ヒクイドリ」は世界一危険な鳥といわれていて、基本的に臆病ながら身の危険を感じると非常に攻撃的になることが知られています。また空を飛べない鳥の仲間である「ダチョウ」のオスは非常に気性が荒く、人を襲うこともあります。

この事から考えるとエミューは大きな体を持つ飛べない鳥としては珍しく、優しい性格の持ち主だといえます。

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なぜエミューは空を飛べないの?

エミューは鳥の仲間ですが、なぜ空を飛べないのでしょうか?

世界にはエミュー以外にも空を飛べない鳥がたくさん存在しますが、かつては飛べない鳥たちは先祖代々空を飛べない動物だったのだろうと考えられていました。しかし研究が進んだ結果、現在では飛べない鳥たちの祖先ももともとは空を飛んでいたものの飛ばなくても食べ物を入手できる、天敵が少ない(いない)といった環境に適合した結果、少しずつ飛べないように進化していったのではないかと考えられています。

ここまで読んで、「飛べた方が便利なのに、なぜ飛べないように進化したのだろう?」と不思議に思う人もいることでしょう。実は鳥が空を飛ぶためには体重を軽くするために骨を軽量化させる、常にフンをして体を軽くする、こまめにたくさん食べてエネルギーを補給するといった多くの“飛ぶための準備”をしなければなりません。そのため飛ばなくても食べ物を入手できる、敵から逃げられるといった条件がそろっていれば、鳥類にとっても飛ばない方が有利なのではないかと考えられています。

なお飛べない鳥のうち、エミューを含むヒクイドリの仲間のほかダチョウ、キーウィ、レアは「走鳥類」(そうちょうるい)と呼ばれています。17世紀頃まではマダガスカル島に体長3m・体重400Kgにもなる「エピオルニス」が、17~18世紀頃まではニュージーランドに体長が最大で3.5mにもなる「モア」と呼ばれる巨大な飛べない鳥が生息していました。しかしエピオルニスもモアも飛べないことから捕まえることが簡単だったようで、人間に乱獲されてあっという間に絶滅してしまいました。

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エミューとダチョウにはどんな違いがあるの?

エミューと世界で1番大きな飛べない鳥・ダチョウはそっくりな見た目をしていますが、この2種類の動物にはどのような違いがあるのでしょうか?

まず見た目の違いから見て行きましょう。エミューは顔から首の色が黒っぽくて性別による羽根の色の違いはありませんが、ダチョウは顔から首の色が白っぽくて体の羽根の色は黒(オス)か茶色(メス)です。またエミューの足の指は3本ですが、ダチョウの足の指は2本しかありません。

また卵にも違いがあり、エミューの卵は目が覚めるような深い緑色で、1個あたりの重さは550~600gほどです。一方ダチョウの卵は白色やクリーム色で、1個あたりの重さは1.3~1.6Kgほどです。

エミューは食べられるって本当?

本当です。
エミューのお肉は赤身が多くて味わいは牛肉に近く、他のお肉と比べても低カロリーで高タンパク質、鉄分が豊富という特徴があります。まだ流通量が少ないためなかなか見かけることはありませんが、見かけたら食べてみるといいかもしれません。

なおエミューは少ない食べ物でも丈夫に育つこと、大人しくて飼いやすいこと、肉や卵は食用、油は化粧品、羽根や革は装飾品などに利用できることから、捨てる所がほぼない新たな家畜動物として注目されています。

特にエミューの油(エミューオイル)にはアボリジニの人たちが皮膚の乾燥を防ぐため、虫刺されや傷口の治療のために古くから薬として使ってきたという歴史があるそうです。そんなエミューオイルは動物の油ですが植物の油に近く、皮脂の組成が人間にとても近くなじみやすいため、化粧品やサプリメントの原料として使われています。

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エミューの羽根には面白い特徴があるって本当?

本当です。
一般的に鳥の羽根は1本の軸に対して1本の羽根が生えます。しかしエミューの羽根は1本の軸に対し2本の羽根が生えるため、V字やハートのような形になるという特徴があります。そのためエミューの羽根はアクセサリーの材料として隠れた人気があり、一部ではエミューの羽根は幸運のお守りや恋愛のお守りとして販売されています。

なおエミューの羽根には自然に抜け落ちるため、エミューを傷つけることなく何度も採取できるという特徴もあります。

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エミューはペットとして飼えるの?

ところで個人がペットとして、自宅でエミューを飼うことはできるのでしょうか?

日本国内において、個人がエミューをペットとして飼育することは可能です。雑食性のエミューは庭に生えている雑草も食べてくれるので、体の大きさの割に餌代はかからないといわれています。ただしとても体が大きいため、エミューを飼うためには広い庭や小屋を用意しなければなりません。

エミューを飼いたいと考えている人はエミューを飼っている牧場を探して、ヒナや卵の販売を行っているか問い合わせをしてみると良いでしょう。ただしエミューの卵はふ化させることが難しく、ヒナはとても体が弱いため、ある程度体が大きくなった状態のヒナをお迎えした方が良いかもしれません。

自宅でエミューを飼育する時は鳥インフルエンザの影響を受けないように、エミューが暮らす場所を清潔に保ち、お世話をする時は手や靴の裏などを消毒してからお世話をすることをおすすめします。

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エミューが見られる動物園はあるの?

エミューは東京都の多摩動物公園、大阪府の五月山動物園、兵庫県の神戸市立王子動物園など多くの動物園で飼育されています。また北海道のオホーツクエミューらんどや佐賀県のきやまファームなど、エミューを中心に飼育している牧場も存在します。

その他にも観光牧場やふれあい広場などで飼育されていることもあるため、探してみると意外と身近なところにいるかもしれません。

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エミューはどのくらい生きるの?

エミューの寿命は20~30年ほどだと考えられています。

エミューはもともと気温差が激しく食べ物が少ない砂漠地帯にも生息していることから、大人になるととても体が丈夫で病気になりにくいといわれています。

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エミューにはどんな敵がいるの?

野生のエミューにはほとんど天敵がいないといわれています。オーストラリアには野生のイヌ・ディンゴが生息していますが、ディンゴがエミューを襲うという事例は多くはないそうです。

そんなエミューにとって、最大の敵は私たち人間です。

エミューは貴重なたんぱく源として、古くからアボリジニの人たちに狩られてきました。しかしアボリジニの人たちの食料となっていたとはいえ乱獲されたわけではなかったため、エミューの生存が脅かされるようなことはなかったようです。

しかしその後オーストラリアに入ってきた西洋人たちに農作物を荒らす害鳥(がいちょう)として駆除されたこと、そして生息環境が悪化したことからオーストラリア周辺の島(カンガルー島、キング島)に生息していたエミューは絶滅してしまいました。現在オーストラリア本土でもエミューの生息地が開発されて移動ルートが分断されてしまい、その生息環境は年々悪化しているといわれています。しかしエミューは少ない食べ物でも十分に育つこと、繁殖力が強いことから今のところ個体数は安定していると考えられています。

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参考文献

今泉 忠明(2000年)『絶滅動物誌―人が滅した動物たち』講談社

福岡市動物園「どうぶつドリル」
https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/75906/1/drill.pdf?20200617155008

大内山動物園「鳥類 エミュー」
http://www.oouchiyama-zoo.com/animals/6677/

東京ズーネット「どうぶつ図鑑 エミュー」
https://www.tokyo-zoo.net/encyclopedia/species_detail?code=119

東京農大バイオインダストリー「What’sエミュー?」
http://www.nodai-bio.jp/emu/emu.html

東京農業大学「食と農」の博物館「エミュー展~エミューを地域資源とした生物産業の創出~」
https://www.nodai.ac.jp/application/files/8414/8600/1435/48.pdf

アグリナレッジ「産業鳥・エミュー」
https://agriknowledge.affrc.go.jp/RN/2030901930.pdf

Australian GEOGRAPHIC「What’s in a name?」
https://www.australiangeographic.com.au/topics/wildlife/2016/02/whats-in-a-name/

ナショナルジオグラフィック「飛べない鳥、進化の謎を解明か」
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/9231/

日本エコシステム「エミュー事業」
https://www.jpeco.jp/business/

国立研究開発法人 科学技術振興機構「報告様式 12 科学研究実践活動のまとめ」
https://www.jst.go.jp/cpse/jissen/pdf/houkoku/SG150031-A-16011.pdf

公益財団法人愛知県国際交流協会「世界の国を知る 世界の国から学ぶ わたしたちの地球と未来 オーストラリア連邦」
http://www2.aia.pref.aichi.jp/koryu/j/kyouzai/PDF/H22/australia.pdf

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