ドール
ドール
ドール
あなたはドールという、赤茶色の毛が特徴で中型犬くらいの大きさの野生イヌ科動物を知っていますか? ごく一部の動物園でしか飼育されていないことから、初めて名前を聞いたという人も多いことでしょう。 ドールはまだわからないことがたくさんあるにもかかわらず、絶滅してしまうのではないかと心配されている動物でもあります。 この記事でドールにはどんな特徴や秘密があるのか、一緒に見ていきましょう!
ドール 基本情報
哺乳綱(ほにゅうこう)食肉目-イヌ科-ドール属
体長80~110cm 体重14~21kg
ドールの特徴は全身が赤茶色の毛でおおわれていることで、その色合いから別名「アカオオカミ」と呼ばれることもあります。その他にも体の下の部分は淡い黄色であること、しっぽは黒いことも特徴といえるかもしれません。野生のドールは数頭から10頭程度、時には20~40頭にもなる「パック」と呼ばれる群れを作って暮らしています。群れのメンバーはメスよりもオスの方が多く、群れの中で一番順位が高いメスとオスだけが繁殖すると考えられています。
ドールは生後11~12カ月ほどで性成熟(せいせいじゅく)を迎え、繁殖ができるようになります。妊娠期間(にんしんきかん)は60~63日ほど、1回の出産で4~6頭の子どもを産みます。生まれたての子どもは黒っぽく、生後2カ月ほどで肉を食べるようになり、生後7カ月頃から狩りに参加しはじめます。
ドールは非常に社交的な動物で、群れのメンバーは協力して狩りや子育てを行います。群れに子どもがいる時に狩りに行く場合は子どもの母親と数頭のメンバーが巣穴に残って子どもを守り、残りのメンバーが狩りに向かいます。狩りに行ったメンバーは巣穴に戻ってくると食べた肉を吐き戻し、子どもに与えます。
ドール Q&A
ドールの名前の由来は何?
ドールという名前の由来は、古代アジアの「無謀」もしくは「大胆」という意味がある単語だと考えられています。
英語では「Dhole(ドール)」「Red dog(レッドドッグ)」、「Indian wild dog(インディアンワイルドドッグ)」など、さまざまな名前で呼ばれています。学名は“高山(こうざん)のイヌ”という意味の「Cuon alpinus」と表現されます。(「Cuon」は“イヌ”、「alpinus」は“高山”のという意味)
日本においては「ドール」のほか、「アカオオカミ」と呼ばれることもあります。
ドールはどうしてそこに住んでいるの?
ドールはインドやアフガニスタン、ロシアなどアジアの広い範囲に生息しています。彼らは日中やぶの中や木陰で休んでいることが多く、朝方や夕暮れ時の周りが薄暗い時間帯になると活動的になります。
ドールは古いタイプのイヌ科動物で、かつてはヨーロッパや北アメリカ、アジアなどの非常に広い範囲に生息していたと考えられています。しかし更新世(こうしんせい)の後期頃になるとヨーロッパに生息していた個体群が絶滅してしまい、今の生息地のみに残ったと考えられています。
なおドールはオオカミやリカオン、コヨーテに似ていますが、「ドール属」という独立した属に分類されている動物です。現在「イヌ科ドール属」に分類される動物はドール1種だけで、生息地や特徴によって最大11種の亜種に分けられていますが、その分類方法に問題があるのではないか、という指摘もあるそうです。
ドールは何を食べているの?
ドールは肉食性の動物で、主に草食動物(イノシシやシカ、スイギュウなど)を捕食しています。主にアキシスジカやサンバーなどのシカ類を食べる傾向があるようですが、ウサギやネズミ、小型のは虫類、昆虫などを食べることもあります。
ドールの生息地にはトラやヒョウといった大型の肉食動物が生息していることが多いため、時に肉食動物同士で獲物を巡る争いが起きることがあります。体が小さいドールは基本的にトラやヒョウに勝てないため、捕らえた獲物を奪われないうちに一気に素早く食べてしまいます。しかしドールは大きな群れを作っている時はトラやヒョウに立ち向かっていき、追い払ってしまうこともあるそうです。
なお動物園では馬肉や鶏肉、レバーや馬の骨などの肉類のほか、ドッグフードを与えることもあるそうです。
ドールの狩りは残酷(ざんこく)って本当?
人によって感じ方は変わりますが、ドールの狩りは残酷だと感じる人も少なくないかもしれません。
ドールの狩りはチームワークを生かし、メンバーそれぞれが連携して自分の役割をこなして効率的に行われるため、他の動物と比べても成功率が高いとされています。時に自分たちの体重の10倍以上の大きさがある、スイギュウのような大きな獲物も捕らえてしまうことからも狩りの腕前が優れていることがよくわかります。
ドールの狩りは数頭が獲物の動きを止め、その間に他の個体が獲物のおなかやおしりにかみついて内臓を引きずり出し、ショック死させるという方法が使われます。内臓を引きずり出された獲物はすぐに絶命するため、苦しむ時間は少ないと考えられます。しかし獲物となった動物がまだ生きていても引きずり出した内臓を食べ始めてしまうところや群れで獲物を囲んでガツガツと食べるところが残酷だ、意地汚いといわれてしまうことが少なくありません。
なおドールが食事をする時は仲間同士で争うことはなく、獲物は群れのメンバーで平等に分け合います。ドールは食いだめができるため、1回の食事で1頭あたりなんと4~5Kgもの肉を食べることもあり、一度満腹になると2日ほど狩りをしないで過ごせるようです。
ドールはいろいろな声で鳴くって本当?
本当です。ドールは仲間同士で連絡を取り合う時に、さまざまな声で鳴くことが知られています。
ドールは他のイヌ科動物と同じように「クゥン」「クンクン」といった声を出すこともありますが、「ホーホー」「チルチル」といった口笛のような声を出すことから「ホイッスリング・ハンター(口笛を吹くハンター)」というあだ名で呼ばれることもあります。
なお彼らには8~11種類の鳴き声があり、その時々によって使い分けられていることがわかっています。しかしそれぞれの鳴き声にどんな意味があるのか、今もはっきりとわかっていません。
ドールとオオカミにはどんな違いがあるの?
ところで同じイヌ科の肉食動物である、ドールとオオカミにはどんな違いがあるのでしょうか。
まずドールとオオカミでは、体の大きさが全く異なります。ドールの体長は80~110cm、体重14~21kgほどと中型犬くらいの大きさしかありません。一方オオカミの体長は82~160cm、体重は18~80Kgほどとドールの何倍も大きな体を持っています。
そしてドールとオオカミでは、歯の数や乳頭(にゅうとう)の数も異なります。ドールの歯の数は40本でオオカミの歯の数は42本、ドールの乳頭は7~8対で(発達するのは普通5対のみ)、オオカミの乳頭は4~5対です。
ドールとオオカミは見た目が似ていますが、こういった体の作りの違いからも別の動物であることがわかります。
ドールはペットとして飼えるの?
ところで日本国内において、個人がペットとしてドールを飼うことはできるのでしょうか?
ドールは日本の法律で人の命や財産に危険を及ぼす可能性がある、「特定動物(とくていどうぶつ)」に指定されています。令和2年6月1日以降新たに特定動物を愛玩目的(あいがんもくてき/ペットとして飼うこと)で飼うことは全面的に禁止されたため、日本国内においてドールをペットとして飼うことはできません。
日本でドールを見られる場所はあるの?
ドールは絶滅が心配されている貴重な動物ですが、日本国内では神奈川県にあるよこはま動物園ズーラシアで飼育・展示されています。
2016年までは東京都の上野動物園でも飼育されていましたが、飼育スペースなどの問題から継続して飼育することが難しくなってしまったそうで今は飼育していません。なお2018年までは大阪府の天王寺動物園でも飼育されていたようです。
イヌ科の野生動物は行動範囲が広いことに加え、群れで生活する性質を持っていることが少なくありません。そのため他の動物と比べても、どうしても生活するスペースに限りがある動物園で飼育するのは難しい部分があるようです。
ドールはどのくらい生きるの?
ドールの寿命は野生下で10年ほど、飼育下で15~16年ほどだと考えられています。
とはいえ野生のドールの場合、ケガをしたり伝染病にかかったりしても病院に行けるわけではありません。さらに(特に)子どものうちは天敵に食べられてしまうことが多いため、10年生きられる個体は多くないものと考えられます。
ドールにはどんな敵がいるの?
野生におけるドールの天敵は大型の肉食動物である、ヒョウやトラだと考えられています。
しかしドールにとって最大の敵は、実は私たち人間です。 ドールは家畜を襲う、数が多すぎる、シカを殺しすぎる、不気味だといった理由から害獣(がいじゅう)扱いされ、昔から毒や銃、罠を使って大量に虐殺されてきました。さらにイエイヌ(ペットのイヌのこと)からイヌ科動物特有の伝染病(狂犬病やジステンパーなど)に感染して死んでしまった、開発によって生息地が減ってしまった、それに伴って餌となる動物が減ってしまった……などさまざまな原因が重なり、ドールは大幅に生息数を減らしてしまいました。
ドールは国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは“近い将来における野生での絶滅の可能性が高いもの”として「絶滅危惧IB類(EN)」に、ワシントン条約では“必ずしも絶滅のおそれはないが取引を規制しなければ絶滅の恐れがあるもの“として「附属書II」に分類されています。
しかし現在野生におけるドールの生息数は2,000頭程度だと考えられていて、イヌ科動物の中では特に絶滅の危険性が高いといわれています。このままではドールの生態や分類が明らかになる前に絶滅してしまい、図鑑や映像でしか見られない幻の動物になってしまう日が来てしまうかもしれません。
あなたも『動物完全大百科』の一員になりませんか?
あなたの知識をQAにして、全世界に発信しましょう。 ※掲載は購入後に有効となります。 さあ、私たちと一緒に情報を共有しましょう!
ドール 種類
- ドール
コメントしませんか?
おめでとうございます! あなたが初めてのコメンテーターです!
あなたの“好き”リストを作ろう!
ドール
気になる動物をお気に入りに登録!後からすぐに見返せる、あなただけのリストを作りましょう。
コメントしませんか?
※ご注意:記事内に掲載するコメント権の購入になります。
あなたの好きを見つけよう!
当ショップでは、様々な動物をテーマにしたユニークで魅力的なグッズを取り揃えております。
ドール 参考文献
- 今泉 忠明(2007年)『野生イヌの百科』データハウス
- よこはま動物園ズーラシア「ドール」 http://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/zoorasia/animal/highlands/Dhole/
- よこはま動物園ズーラシア「飼育日誌 Newアイドール☆ドール」 http://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/zoorasia/details/new.php
- 東京ズーネット「どうぶつ図鑑 ドール」 https://www.tokyo-zoo.net/encyclopedia/species_detail?code=60
- Mystery of Whistling Hunters, the Dhole or Indian Wild Dog!「【ドールの学名とその意味】」 https://kuri3.jimdofree.com/日本語/ドールとは/名前とその意味/
- dholes.org「WHAT MAKES A DHOLE」 http://www.dholes.org/what-makes-a-dhole.html
- 京都大学野生動物研究センター「口笛ハンター、ドールの会話」 https://www.wrc.kyoto-u.ac.jp/booklet/dhole.html
- Yahoo Japan「イヌ科の希少動物”ドール”の狩り【ナショジオ】」 https://video.yahoo.co.jp/c/3888/9204a8671b8c60c42608832511a492ba69ede8c3
ドール 使用メディア紹介
食べ物
食べ物
似ている動物
天敵
天敵
動物完全大百科をあなたのメディアで豊かにしよう!
動物完全大百科では、動物の素晴らしい写真や動画を常に募集しています。もしあなたが共有したいメディアがあれば、ぜひご提供ください。あなたの投稿はクレジット付きで動物完全大百科に掲載され、多くの動物愛好家に届けられます。動物の魅力と多様性を一緒に伝えましょう。