カラス
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あなたは「真っ黒いくちばしと羽を持つ鳥といえば?」と聞かれたら、なんと答えますか? おそらく街中でも良く見かける身近な鳥、「カラス」と答える人が多いのではないでしょうか。 不吉や汚いといった悪いイメージを持たれがちなカラスですが、実際彼らはどんな生活を送っているのでしょうか? この記事でカラスはどんな生態の動物なのか、どんな特徴や秘密があるのか一緒にのぞいていきましょう!
カラス 基本情報
鳥綱 スズメ目-カラス科
ハシブトガラス 体長57cmほど 体重600~800g
ハシボソガラス 体長47~50cmほど 体重450~600g
カラスの仲間は南極や南アメリカなどの一部地域をのぞく、世界のあらゆる場所に生息している鳥類の1種です。全世界には40種類ほどの仲間がいるといわれていますが、日本国内でよく見られるのは「ハシブトガラス」と「ハシボソガラス」の2種類です。そのためこの記事では、主にハシブトガラスとハシボソガラスについて説明していきます。
ハシブトガラスはくちばしが大きくて太く、ひたいが出っ張っていて「カァー」という澄んだ声で鳴きます。ハシボソガラスはハシブトガラスよりも体が一回りほど小さくてくちばしが小さくて細く、ひたいはなだらかで「ガァー」という濁った声で鳴きます。とはいえどちらも全身が黒いため、パッと見てこの2種を判別するのは簡単なことではありません。
カラスは一夫一婦制(いっぷいっぷせい)の動物で、1度つがいになるとほとんどの場合生涯そのペアが解消されることはありません。生後3~4年くらいで繁殖できるようになり、ハシブトガラスは4~8月頃、ハシボソガラスは3~7月頃、平均して4~7月に繁殖期を迎えます。繁殖期を迎えたカラスはなわばりの中にある木の上や電柱などに巣を作り、1回に2~5個の卵を産みます。子育てはつがいが協力して行い、ふ化したヒナの57%ほどが巣立ちを迎えるといわれています。
カラス Q&A
カラスの名前の由来は何?
カラスという名前の由来には、主に2つの説があると考えられています。
1つ目はその見た目から「黒し(くろし)」もしくは「黒す(くろす)」と呼ばれていて、それが転じて「カラス」となったという説です。2つ目は「カー・コー」「カラ・コロ」という鳴く鳥ということから「カラス」「コロス」と呼ばれ、それが転じて「カラス」となったという説です。どちらの説が正しいのかわかっていませんが、どちらにしてもカラスは昔からその見た目や鳴き声が注目されていたことがわかりますね。
なおカラスは英語で「Crow(クロウ)」もしくは「Raven(レイヴン)」、漢字では「烏」もしくは「鴉」と表現されます。
カラスはどうしてそこに住んでいるの?
カラスは種類により、好む生息地が大幅に異なります。
ハシブトガラスは森林と都市部を好みますが、ハシボソガラスは農耕地や河川敷を好むため都市部ではほぼその姿を見かけません。もともとの生息地はそれぞれのカラスが好む食べ物によって分かれていたと考えられますが、その後ハシブトガラスは人が出すごみの中に栄養価が高い食べ物があることを学習して都市部で暮らすようになったようです。
なおハシブトガラスは英語で「Jungle Crow」と表現されるように、本来は都市部ではなく森林に生息するカラスです。実は海外におけるハシブトガラスは人里離れた森林で見かける鳥であり、街中で見かけることはないそうです。
ちなみにハシブトガラスとハシボソガラスの生息域がかぶっている場所もありますが、この2種が交雑(こうざつ)して雑種ができることはないそうです。これはハシブトガラスとハシボソガラスが見た目こそ似ているものの全く別の種類であること、そして近縁の動物ではないことを示しています。
カラスは何を食べているの?
カラスは種類にもよりますが、基本的に雑食性の動物なので手に入るものであればなんでも食べます。
動物質の食べ物としてはネズミなどの小動物や小鳥のヒナと卵、カエルや昆虫、動物の死肉などを、植物質の食べ物としては木の実や家畜の飼料(に含まれるトウモロコシなど)、農産物(ミカン、スイカ、ブドウ、コメなど)などを食べます。その他にも生ごみ(肉や魚、揚げ物などの残飯やマヨネーズなど)を食べています。
都会のごみを荒らすのは主にハシブトガラスですが、かつてハシブトガラスは動物の肉を好む傾向が、ハシボソガラスは植物質を好む傾向があるといわれていました。しかしどちらも甘い果実を好み、ハシボソガラスも機会があれば喜んで肉を食べることから一概にそういった傾向があるとはいえず、生息地やその餌が手に入るかどうかによってカラスの好みは変わるのではないかと考えられています。
カラスはどのような生活を送っているの?
カラスは街中でよく見かける鳥ですが、彼らがどのような生活を送っているか知っていますか?
カラスは秋から冬にかけては集団で生活していて、夜になると森林に作られた「ねぐら」と呼ばれる場所に集まって寝泊まりをしています。ねぐらは人間でいうところのマンションのようなもの、と考えるとわかりやすいかもしれません。カラスはここで天敵から身を守ったり、情報を交換したり、つがいを見つけたりとさまざまな活動をしていると考えられています。
そんなカラスは明るい時間帯に活動する、昼行性(ちゅうこうせい)の動物です。彼らは日の出直前にねぐらから出て飛び立ち、明るいうちはエサを探したり水浴びをしたりとさまざまな活動を行い、夕方になるとねぐらに戻って休みます。カラスは食べ物がたくさん入手できる時は食べ物が少ない時に備え、食べ物を蓄えておく習性があります。そのため昼間はその日に食べる物を探すだけではなく、食べ物を隠した場所に行って点検をすることもあるそうです。
冬があけて4~7月頃になると、カラスは年に1度の繁殖期を迎えます。繁殖期を迎えたカラスはつがいでなわばりを持ち、その中で巣を作って子育てを行うためねぐらに戻ることはありません。なお作った巣はその年だけ利用され、基本的には再利用されることはないといわれています。
カラスは本当に賢いの?
カラスといえば頭がいい動物だ、というイメージを持っている人もいるのではないでしょうか?では本当にカラスは賢い動物なのか、カラスの知能に関するエピソードを見ていきましょう。
まずカラスは人の顔を覚えて見分けたり、飼育下では人の言葉をまねてしゃべったりすることが知られています。さらに記憶力に関するテストを行ったところ、半年以上記憶を保持し続けられるということが判明しています。また野生のカラスがクルミを道路に落として車に踏ませて割ってから食べる行動、カレドニアガラスが道具を作って使い、さらに上手に作れた道具は取っておいて何度も使うという行動も確認されています。
動物が道具を使うためには目的を達成するために必要なことを明らかにし、そのために必要な物を選んで使うという複雑な工程が必要です。そのため道具を使える動物は少なく、人間やチンパンジー、オランウータンなど一部の動物だけに限られます。さらに“道具を作る動物”ともなれば、道具を使える動物よりも数が少ないのは明らかです。
こういった行動を見てみると、カラスは非常に賢い動物だと思えます。実際に知的能力が非常に高くチンパンジーやオランウータンなどの類人猿レベルの課題をクリアしてしまうことから、「羽毛の生えた類人猿」と呼ばれることもあるそうです。しかし鏡に映った自分の姿を自分だと認識できないなど、他の動物にはできてカラスにできないこともあります。
総合的に見るとカラスは人間の幼児くらいの知能はあるのではないか、と考えられています。ただし全てのカラスが同じ行動をできるわけではなく、また種類によってもできることは異なるために一概に“カラスは賢い動物である”とか“カラスは〇才児くらいの知能がある”と言い切るのは難しいともいえます。
カラスはどうして人を襲うの?
春から夏頃になると、街中で人がカラスに襲われるという事態が起きることがあります。それではなぜ、カラスは人を襲うのでしょうか?
前提としてカラスが一年中人を襲うということや攻撃的な性格をしているということはなく、カラスが人を襲うのは彼らの繁殖期である4~7月の間だけです。カラスはもともと非常に縄張り意識が強いこともあり、ヒナが巣立つ時期はヒナを守るために気が立っていて興奮しやすく、攻撃的になっています。そういった時期にうっかりカラスの縄張りに入ってしまうと、巣やヒナを守ろうとするカラスに襲われてしまうというわけです。
なお北海道の札幌市では6~7月ころになると街中を歩いているだけでカラスに襲われることがあり、その様子がニュースになることもあります。
カラスは食べられるって本当?
はい、実はカラスは食べられます。
かつて長野県にはカラスの肉を使った郷土料理、「カラス田楽(でんがく)」(別名:ろうそく焼き)というものがあったそうです。これはカラスの肉とネギ、しょうが、みそなどを混ぜてたたいて串に刺して焼いたもので、イメージとしてはつくねに近い料理だったようです。カラス田楽は体が温まるとして重宝され、昭和の半ばまでは良く食べられていたようです。
カラスは海外でも食べられてきた歴史があり、中国やベトナムでは食材として、韓国では薬として利用されていたようです。なおフランスでは現在もジビエとして、少数が食べられているそうです。ちなみにカラスの肉は鉄分が多く、鶏肉よりも牛肉に近い味わいだといわれています。肉は全体的にやや硬く、皮は硬くてとてもかみ切れないものの味は決して悪くないそうです。
なお日本国内においてミヤマガラス、ハシボソガラス、ハシブトガラスの3種は狩猟鳥獣であるため、狩猟免許を持っている人が定められた狩猟期間に捕獲すれば問題なく食べられます。実際にカラス料理を提供しているお店やカラス肉を販売しているお店もあるので、興味がある人は探してみても良いかもしれません。
カラスはペットとして飼えるの?
ところで個人がペットとして、カラスを飼うことはできるのでしょうか?
「カラスは食べられるって本当?」のところで説明したとおりミヤマガラス、ハシボソガラス、ハシブトガラスの3種は狩猟鳥獣です。そのため狩猟免許を持っている人であればこの3種を定められた狩猟期間と場所に限り、自由に捕まえられます。そして捕まえた動物の扱い方に関する決まりはないため、食べるのも飼うのも本人の自由ということになります。
またケガや病気になってしまったカラスを保護し、飼っている人もいます。基本的に野生動物を保護した場合はケガや病気が治ったら野生に戻さなければなりませんが、野生復帰ができないと判断された場合は都道府県などの許可を得ればそのまま飼い続けられます。その他にはアフリカに生息する「ムナジロガラス」がペット向けのカラスとして、一部のペットショップなどで流通することがあるようです。
カラスは人の顔を覚えるため、愛情をもって接すると人によくなつくといわれています。ただしカラスは体が大きいため、飼うためにはそれなりに広くて大きいスペースが必要です。また鳴き声が大きいため、一般的な集合住宅でカラスを飼うのは難しいと考えられます。
カラスはみんな真っ黒なの?
カラスには40種類ほどの仲間がいますが、体の色はみんな真っ黒なのでしょうか?
カラスの仲間は大半が黒色ですが、「ムナジロガラス」や「コクマルガラス」、「ズキンガラス」といった黒色と白色のツートンカラーのカラスもいます。またハシブトガラスもハシボソガラスもくちばしから脚まで全身真っ黒ですが、羽は良く見るとつやがあり、メタリックな紫色や青色の光沢が見られます。余談となりますが、カラスの羽のようにつやのある黒色のことを“烏の濡れ羽色(からすのぬればいろ)”と表現します。
なおカラスの仲間の中でも“カラス科”というさらに広い分類で見てみると、「ルリカケス」や「ルリサンジャク」といった青色の羽を持つ鳥も存在します。
カラスはどのくらい生きるの?
カラスの寿命ははっきりとわかっていませんが、おおよそ10~20年ほどではないかと考えられています。
おそらく野生下よりも飼育下の方が長生きすると考えられますが情報が少なく、はっきりしたことはわかっていません。なおミヤマガラスでは19.9年、飼育下における日本のカラス(種類は不明)は20年生きたという記録があるようです。
ちなみにインターネット上でカラスの寿命は100年、120年という情報を見かけることがありますが、これはいわゆる都市伝説と考えて差し支えありません。おそらくカラス自体はよく見かけるにもかかわらず、死骸(しがい)をなかなか見かけないことからこのような話が持ち上がったのではないかと考えられます。
カラスにはどんな敵がいるの?
カラスの天敵はワシやタカなどの猛禽類(もうきんるい)、そして私たち人間です。
ごみや農作物を荒らすハシブトガラスやハシボソガラスは害鳥として扱われ、全国各地で駆除されています。その駆除数は東京都だけでも令和元年に約4,800羽、累計ではなんと228,000羽にも上ります。
カラスのように空を飛べる鳥は生息数を調査することが難しく、全国にどのくらいのカラスが生息しているのか正確なことはわかっていません。とはいえこれだけの数が駆除されていても、カラスが絶滅してしまう恐れはほぼないものと考えられています。
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カラス 参考文献
- 松原 始(2013年)『カラスの教科書』雷鳥社
- 松原 始(2015年)『カラスの補習授業』雷鳥社
- 杉田 昭栄(2018年)『カラス学のすすめ』緑書房
- TBS NEWS「Nスタ545:札幌で“カラス被害”相次ぐ」 https://www.youtube.com/watch?v=tKgqltNCIo8
- 歴人マガジン「【上田のカラス】真田一族ゆかりの地に引き継がれる気質と郷土料理」 https://rekijin.com/?p=13122
- 東京都環境局「生息数等の推移(取組状況)」 https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/nature/animals_plants/crow/jyokyo.html
- 現代ビジネス「カラスも「目上のカラス」に忖度する…知られざる社会模様」 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/63531
- NPO法人札幌カラス研究会「カラスの繁殖」 http://www13.plala.or.jp/crow-sapporo/couple.html
- 自治体担当者のためのカラス対策マニュアル Ⅲ 資料編 https://www.env.go.jp/nature/choju/docs/docs5-1b/03.pdf
- 中川 鮎美(2018)人が捉えたカラスの姿「生物」としてのカラスと「イメージキャラクター」としてのカラス http://human.kanagawa-u.ac.jp/gakkai/student/pdf/i14/140314.pdf
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