コヨーテ
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あなたはコヨーテという、北から中央アメリカにかけて生息するイヌ科の動物を知っていますか? 動物番組やアメリカのアニメ作品などにときおり登場することから、名前は知っているという人もいるかもしれません。 オオカミとキツネの間を思わせる見た目と顔つきのコヨーテはとても適応力(てきおうりょく)があり、野生のイヌ科動物としては珍しく今でもどんどん生息地を広げています。 この記事でコヨーテにはどんな特徴や秘密があるのか、こっそりのぞいていきましょう!
コヨーテ 基本情報
哺乳綱食肉目-イヌ科-イヌ属
体長 75~100cm 体重 オス8~20Kg メス7~18Kg
コヨーテの生息地は北アメリカから中央アメリカにいたる、とても広い範囲です。もともとはアメリカの西部にある草原や砂漠だけに生息していましたが、天敵であるオオカミやピューマが人間によって駆除されたこと、ロサンゼルスのような大都市でも暮らしていけるほどの適応力を持っていることから今もどんどん生息地を広げています。
コヨーテは基本的にオスとメスの番(つがい)か番を中心にした家族、あるいは単独で生活しています。繁殖期(はんしょくき)は 1~3 月で生後22カ月ほどになると性成熟(せいせいじゅく)を迎え、約63日の妊娠期間(にんしんきかん)を経て5~6頭の子どもを産みます。
コヨーテは食肉目ですが、雑食性(ざっしょくせい)の強い肉食の動物です。群れで協力してシカなどの大きな動物を捕まえることもありますが、どちらかというと単独でプレーリードッグやウサギ、ネズミなどの小動物や鳥類を捕まえることが多いようです。動物の肉のほかにはカエルやトカゲ、ザリガニ、昆虫、果物、草など手に入るありとあらゆるものを食べています。シカやワピチなどの死肉を食べたり街にやってきてゴミを漁ったりするコヨーテは、自然界における掃除屋の役割も果たしています。
コヨーテ Q&A
コヨーテの名前の由来は何?
コヨーテという名前の由来は、メキシコの先住民族であるアステカ族の言葉「coyote」だといわれています。この言葉には“ほえるイヌ”という意味があり、よくほえるコヨーテの習性を表しています。
なおコヨーテの学名はラテン語で「Canis latrans」と書きますが、「Latrans」という単語には“遠吠え”という意味があり、学名には“ほえるイヌ”という意味が込められているそうです。英語の名前も学名も同じ意味が込められていることを考えると、コヨーテがよくほえること、そしてコヨーテと鳴き声が切っても切れない関係にあることがわかります。
コヨーテとオオカミにはどんな違いがあるの?
コヨーテとオオカミは同じイヌ科の動物で、見た目も良く似ています。コヨーテは別名「ソウゲンオオカミ」と呼ばれることもありますが、コヨーテとオオカミにはどんな違いがあるのでしょうか?
コヨーテとオオカミの違いとしては、まず体の大きさがあげられます。 コヨーテの大きさは体長75~100cm、体重はオスで8~20Kg、メスで7~18Kgほどです。一方のオオカミ(ハイイロオオカミ)の大きさは体長82~160cm、体重はオスで20~80Kg 、メスで18~55Kgほどとオオカミの方が圧倒的に大きいことがわかります。
またコヨーテとオオカミでは、食べるものにも違いが見られます。 コヨーテは雑食性が強い肉食動物で、動物の肉以外にもは虫類や両生類、魚や昆虫、植物など手に入るあらゆるものを食べています。対するオオカミはほぼ完全な肉食動物で、シカやイノシシ、バイソンなどの大型の草食動物を中心に食べています。
そして見た目の違いとしては、耳とマズル(鼻)の形があげられます。コヨーテの耳は先がとがっていますが、オオカミの耳の先は丸まっています。またコヨーテのマズルは先に向かって細くなりますが、オオカミのマズルは太くまっすぐになっています。
コヨーテはどうして遠吠えをするの?
“ほえるイヌ”という名前を持つコヨーテは、その名前の通りとてもよくほえます。
同じイヌ科の動物であるオオカミは遠吠えをすることで有名ですが、コヨーテもオオカミと同じように遠吠えをします。オオカミは仲間とのコミュニケーションや縄張り(なわばり)の主張をする時など限られた時だけ遠吠えをしますが、コヨーテはひんぱんに遠吠えをして縄張りの主張や仲間とのコミュニケーションを行います。
コヨーテは1年中遠吠えをしますが、アメリカでは明け方と夕暮れになるとコヨーテの大合唱が聞こえてきます。1頭がほえ始めると仲間が次々と参加して1~2分ほどほえ続け、一休みするとまたみんなでほえ始めます。
コヨーテはなぜ適応力が高いといわれているの?
コヨーテはとても賢く、あらゆる環境に適応できる力を持っていると考えられています。それは一体なぜでしょうか?
まずコヨーテは肉食動物ですが雑食性が強く、その時その場所で手に入るものであればなんでも食べられるからです。泳ぎが美味いため川に入って魚やザリガニ、カニなどを捕まえたり、街にやってきてネズミや野良猫、ゴミなどを食べたりすることもあります。
またコヨーテは基本ペアで行動しますが、食べ物や天敵(てんてき)の状態によって生活スタイルを変えることも知られています。コヨーテは食べ物が多い時は群れで暮らして天敵が多い時は単独で暮らすなど、状況に応じて生活スタイルを変えられる柔軟さを持っています。
そしてコヨーテは狩猟や駆除が行われて個体数が大幅に減ると、1回に産む子どもの数が増えるという驚くべき能力を持っています。コヨーテは通常1回に5~6頭の子どもを産みますが、個体数が減るとなんと1回に12~16頭もの子どもを産むそうです。そのためコヨーテをたくさん捕まえても、次の年にはもう元の数に戻っている……ということが起こるそうです。
コヨーテはペットとして飼えるの?
コヨーテは中型犬くらいの大きさですが、ペットとして飼うことはできるのでしょうか?
コヨーテは日本の法律で人の命や財産に危険を及ぼす可能性がある、「特定動物(とくていどうぶつ)」に指定されています。現在日本国内においては特定動物を新たに愛玩目的(あいがんもくてき・ペットとして飼うこと)で飼うことが全面的に禁止されているため、コヨーテをペットとして飼うことはできません。
しかし法律の制限がなかったとしても、とてもさわがしくよくほえるコヨーテを飼うのは簡単なことではなさそうです。
コヨーテは人間を襲うの?
コヨーテは本来とてもおくびょうな動物であり、人間を襲うことはないと考えられていました。実際にコヨーテが家畜や家禽、ペットを襲うことはあるものの、死亡事故はほぼ起きていなかったそうです。
しかし2009年、カナダの国立公園でハイキングをしていた“テイラー・ミッチェル”さんというフォークシンガーの女性がコヨーテに襲われて亡くなる、といういたましい事故が発生しました。目撃情報がないため今でもコヨーテがテイラーさんを襲った理由は不明ですが、わずかながらコヨーテが人を襲う可能性があることがわかった事件として語り継がれています。
コヨーテの血を引く犬がいるって本当?
はい、本当です。 コヨーテとイエイヌ(家犬・ペットとして飼われているイヌのこと)の間に生まれたイヌは「コイドッグ」と呼ばれていて、海外ではペットとして飼っている人もいるそうです。
しかしこのコヨーテとイヌの血を引いた動物はコヨーテの慎重さとイヌの賢さをあわせ持っていて、純粋なコヨーテよりも家畜を攻撃する傾向が強いとされています。そのためアメリカではコヨーテと野良犬の間に生まれてしまった、野生のコイドッグの存在が問題視されています。
コヨーテとオオカミの間で子どもはできるの?
はい、できます。コヨーテはイヌだけでなく、オオカミとも子どもが作れることが知られています。
実はアメリカには「ハイイロオオカミ」のほかに、「アメリカアカオオカミ」というハイイロオオカミより小さくてコヨーテより大きいオオカミが生息しています。そんなアメリカアカオオカミはもともと独立した種類、もしくはハイイロオオカミの亜種だと考えられていました。しかし1990年代になって遺伝子検査(いでんしけんさ)を行ったところ、アメリカアカオオカミはそもそもハイイロオオカミとコヨーテの雑種かもしれないという可能性が浮上したのです。
アメリカアカオオカミは生息地の破壊や狩猟によって数が大きく減ってしまったうえ、コヨーテと交雑(こうざつ)するようになってしまい、このままでは純粋なアメリカアカオオカミが絶滅(ぜつめつ)してしまうのではないかと心配されていました。わずかに残った個体は厳重に保護されていましたが、ハイイロオオカミとコヨーテの雑種ならばそもそも純粋なアメリカアカオオカミというものは存在しないのではないか、本当に保護する必要があるのか、と考えている人もいるようです。
コヨーテは昔から迫害(はくがい)されてきたって本当?
残念ながら本当です。コヨーテの歴史を知るためには、オオカミの歴史も知る必要があります。
アメリカ大陸の開拓(かいたく)が行われていた時代、オオカミは人間や家畜(ウシやウマなど)を襲う動物としてとても嫌われていました。そして政府や牧場主、ハンターは人間や家畜を守るためという大義名分をかかげて、オオカミを徹底的(てっていてき)に殺しつくしました。その結果オオカミは多くの地域で絶滅して、家畜がオオカミに襲われることはほぼなくなったのです。なおこの頃の歴史をもとに描かれたのがシートン動物記の中でも特に有名な物語である、「狼王ロボ」です。
この流れはオオカミだけで止まらず、オオカミよりも体が小さく、ウシやウマなどを襲う可能性が低いコヨーテにも大きな影響を及ぼしました。コヨーテは家畜や家禽を襲う可能性がある「家畜殺し」という不名誉な名前を付けられて、見つけ次第銃で撃たれ、わなや毒を使って殺されたのです。そして1947年から1956年までの間に、なんと650万頭ものコヨーテが殺されたそうです。
オオカミやコヨーテが迫害されてきた歴史を知って、あなたはどんなことを思うでしょうか。
コヨーテにはどんな敵がいるの?
野生におけるコヨーテの敵は、オオカミやピューマ、オオワシだといわれています。
しかしコヨーテにとって、一番の敵は私たち人間といっても言いすぎではないでしょう。実は北アメリカでは、今でも年間40~50万頭ものコヨーテが駆除されています。しかし驚くべきことに、コヨーテたちはこれだけの頭数が駆除されても年々数を増やし、生息地を広げ続けています。このまま生息地が拡大していくと、いずれコヨーテは南アメリカにも進出(しんしゅつ)するのではないか、といわれています。
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コヨーテ 参考文献
- 今泉 忠明(2007年)『野生イヌの百科』データハウス
- スミソニアン協会(2017年)『驚くべき世界の野生動物生態図鑑』日東書院本社
- 東邦大学「雑種のはなし」 https://www.toho-u.ac.jp/sci/bio/column/022600.html
- ナショナルジオグラフィック「動物大図鑑 コヨーテ」 https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20141218/428836/
- ナショナルジオグラフィック「コヨーテの生息域が40%も拡大、南米大陸が目前に」 https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/19/120400704/
- 環境省「4 比較的大型のイヌ類〈食肉目、イヌ科・ハイエナ科〉」 https://www.env.go.jp/nature/dobutsu/aigo/2_data/pamph/h1804/06.pdf
- NATIONAL GEOGRAPHIC「How the Most Hated Animal in America Outwitted Us All」 https://www.nationalgeographic.com/news/2016/08/coyote-america-dan-flores-history-science/
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