ヤブイヌ

出典:https://pixabay.com/images/id-5491098/

あなたはヤブイヌという、「最も原始的」といわれるイヌ科動物を知っていますか?
ヤブイヌは中央~南アメリカに生息している動物で、イタチやダックスフントのような胴長短足の体型が特徴です。
日本の動物園ではあまり飼育されていないため、見たことがないという人も多いのではないでしょうか。
ヤブイヌを知っている人も知らない人も、この記事で彼らにどんな特徴や秘密があるのか一緒に見ていきましょう!

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~基本情報~

哺乳綱(ほにゅうこう)食肉目-イヌ科

体長58~75cm 体重5~7kg

ヤブイヌは最も原始的なイヌ科動物で、その特徴は足が短く胴が長い、イタチやダックスフントのような胴長短足の体型です。そのうえ耳が小さくて丸いため、イヌの仲間ではなく、イタチの仲間だと思ってしまう人もいるのではないでしょうか。この独特の体型は草や低木がうっそうと生えたやぶの中を駆け抜けたり、アルマジロが掘った穴を利用したりする際に適していると考えられています。

ヤブイヌは基本的に夜活動する夜行性の動物で、昼間は穴の中などで休んでいます。野生でどんな生活をしているかまだまだ詳しいことがわかっていない動物ではありますが、どうやら10匹程度の群れを作って狩りをしながら暮らしているようです。

ヤブイヌはメスが生後10カ月ほど、オスが生後12カ月ほどで性成熟(せいせいじゅく)を迎え、繁殖できるようになります。妊娠期間(にんしんきかん)は2カ月ほど(65~83日)で、1回の出産で1〜6匹(平均4匹)の子どもを産みます。

出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Chiens_de_buissons.jpg

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ヤブイヌのQ&A

ヤブイヌの名前の由来は何?

ヤブイヌはその名前の通り、やぶ(藪)で暮らすイヌ科の動物であることから、この名前が付けられたと考えられています。英語でも「Bush Dog」(Bushはやぶのこと)と呼ばれていて、学名では「Speothos venaticus」と表現されます。

なお日本でも、別名「ブッシュドッグ」と呼ばれることがあります。

出典:https://pixabay.com/images/id-2609/


ヤブイヌはどうしてそこに住んでいるの?

ヤブイヌは中央アメリカから南アメリカにかけた、広い範囲(パナマ、コロンビア、ペルー、ボリビア、ベネズエラ、ガイアナなど)に生息しています。

ヤブイヌがなぜこの地域に住むようになったのか、詳しい理由はわかりませんでした。しかしこの地域には、ヤブイヌが原始的な特徴を持ったまま生き抜いていける十分な食料と、身を隠す場所があったことも大きな理由ではないかと考えられます。

出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Speothos_venaticus_-_01.jpg

ヤブイヌは何を食べているの?

ヤブイヌは肉食性の動物で、野生ではアグーチやアルマジロなどの小型の哺乳類や鳥類、魚類などを捕まえて食べています。時には群れで協力し、カピバラやマザマジカなどの自分よりも大きな動物を捕まえることもあります。

なおヤブイヌは基本的に肉食ですが、果物も好むようです。そのため動物園では肉類(鶏肉や馬肉、マウスなど)やドッグフードをメインに、リンゴやバナナなどの果物を与えることもあるそうです。


ヤブイヌは水かきを持っているって本当?

本当です。

ヤブイヌはイヌ科の動物ですが、指の間に水かき状の皮膚が発達しています。そのため泳ぐことはもちろん、水に潜ることも得意です。ヤブイヌが泳いでいる姿を見ると、イヌというよりカワウソのように見えるかもしれません。

出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:I don’t think he’s got the hang of hide and seek (9137670399).jpg


ヤブイヌは逆立ちが得意って本当?

本当です。
動物の中には自分のオシッコやウンチを使って自分のにおいを残し、「ここは自分の縄張りだ」と主張するマーキングを行うものがいます。ヤブイヌも広大な縄張りを持つ動物で、縄張りを維持するためにあちこちにマーキングを行う習性があります。

そしてヤブイヌのメスはマーキングをする際、逆立ちをすることで知られています。なぜ逆立ちをしてオシッコをするのかというと、ヤブイヌの胴長短足の体型でもより効率よくマーキングをするためだと考えられています。逆立ちをしたほうがよりオシッコが高い場所に届き、遠くに飛ぶという訳です。

とはいえヤブイヌのメスも、生まれてすぐに逆立ちオシッコができるようになる訳ではありません。ある程度成長すると逆立ちをしようとしはじめ、力の入れ方やバランスなどを試行錯誤して、ようやく逆立ちオシッコができるようになっていくそうです。

なおヤブイヌのオスはマーキングをする際、イヌのように片足を上げてオシッコをします。

出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Le Pal – 2016.10.23 – Chiens Buissons 4.jpg



ヤブイヌは後ろ向きにダッシュできるって本当?

本当です。ヤブイヌは前を向いたまま、後方に向かって走れることが知られています。

ヤブイヌが暮らしている場所は、深いやぶの中や穴の中です。そのためヤブイヌは敵と出会うと前を見たまま後ろに向かって走り、敵から逃げようとします。そんなヤブイヌが後ろ向きに走る速度は、なんと前に向かって走る時とほぼ同じなのだそうです。

出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Chien_des_buissons_Safari_de_Peaugres_07082017_1.jpg


ヤブイヌはペットとして飼えるの?

ところで日本国内において、個人がペットとしてヤブイヌを飼うことはできるのでしょうか?

ヤブイヌは国際的に野生動植物を守るための取り決めである「ワシントン条約」(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)において、“絶滅のおそれのある種で取引による影響を受けている又は受けるおそれのあるもの“として「付属書Ⅰ」(ふぞくしょ)に分類されています。付属書Ⅰに分類されている動物は世界的に保護されており、研究などの特別な目的がない限り取引できないと定められています。

そのため基本的に「ペットとして飼う」目的で、ヤブイヌを海外から輸入することは不可能です。国内で繁殖させた個体であれば購入・飼育できる可能性はありますが、恐らく“ペットとしてヤブイヌを飼うこと”はほぼ不可能と考えて差し支えないでしょう。

出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Bush_dog_at_Chester_Zoo_1.jpg


ヤブイヌが見られる動物園はあるの?

ヤブイヌは埼玉県の「埼玉こども動物公園」、神奈川県の「よこはま動物園ズーラシア」、愛知県の「東山動植物園」、京都府の「京都市動物園」、兵庫県の「神戸どうぶつ王国」、鹿児島県の「平川動物公園」、高知県の「高知県立のいち動物公園」で飼育されています。

ヤブイヌは貴重な動物であり、日本国内の動物園では15頭程度しか飼育されていません。そのため各動物園が協力し合い、繁殖を行うべくブリーディングローン(繁殖を目的とした動物の貸借契約のこと)を行っています。直近では2021年の8月に神戸どうぶつ王国で赤ちゃんが2頭生まれているため、今後も上記の園でヤブイヌの赤ちゃんが見られることもあるかもしれません。

出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Zoo Praha, pes pralesní (2).jpg


ヤブイヌはどのくらい生きるの?

ヤブイヌの寿命は、飼育下で10~15年だといわれています。

日本国内では埼玉こども動物公園で飼育されていた「ユウタ」が国内最長齢のヤブイヌで、15歳まで生きました。他の動物園で飼育されていた個体は腸炎などを発症し、10歳未満で死亡するケースが多く見られました。

出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:I_hate_humans_(2531284210).jpg


ヤブイヌにはどんな敵がいるの?

野生において、ヤブイヌにはこれといった天敵がいないと考えられています。とはいえ、ピューマやジャガーをはじめとした肉食動物と生息地がかぶるため、特に子どものうちは襲われてしまうこともあるかもしれません。

そんなヤブイヌにとって最大の敵は、残念ながら私たち人間です。なぜならヤブイヌが暮らす場所が日々開発されていて、生息地や獲物が減少しているからです。さらに飼い犬と接触する機会が増えたことにより、飼い犬に殺されたり病気をうつされたりするヤブイヌも増えているといわれています。

ヤブイヌは国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストにおいて、“すぐに絶滅する恐れは少ないものの生息条件などの変化によっては深刻な状況に移行していく可能性がある種”である「NT(準絶滅危惧種)」に分類されています。

出典:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Bush_Dog_5.jpg

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参考文献

今泉 忠明(2007年)『野生イヌの百科』データハウス 

東山動植物園「オフィシャルブログ はじめての逆立ちおしっこ」
http://www.higashiyama.city.nagoya.jp/blog/2015/09/post-2486.html

埼玉こども動物公園「ヤブイヌのユウタが死亡しました」
https://www.parks.or.jp/sczoo/news_special/detail/001495.html

よこはま動物園ズーラシア「ヤブイヌ」
https://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/zoorasia/animal/amazon/BushDog/

京都市動物園「どうぶつ図鑑 ヤブイヌ/Bush Dog」
https://www5.city.kyoto.jp/zoo/animals/s_venaticus

東山動植物園「ヤブイヌ」
http://www.higashiyama.city.nagoya.jp/04_zoo/friend/2018/02/post-32.html

朝日新聞「ヤブイヌの赤ちゃん公開 横浜・ズーラシア」

https://www.asahi.com/komimi/TKY200708180110.html

エコチル「[高知県立のいち動物公園]生き物ってオモシロイ!!|今月のどうぶつ:ヤブイヌ」
http://tokyo.ecochil.info/2021/07/12/z2107noichi-zoo_kouchi/

ZOONEWENGLAND「BUSH DOG」
https://www.zoonewengland.org/stone-zoo/our-animals/mammals/bush-dog/

The Canid Specialist Group「BUSH DOG」
https://www.canids.org/species/view/PREKIV875331

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https://pixabay.com/images/id-5491099/