あなたはリカオンという、アフリカに生息するぶち模様が特徴のイヌ科の野生動物を知っていますか？
彼らは非常に社会性が高くて家族の絆が強く、狩りが上手なアフリカ最強のイヌ科動物といわれています。
そんなリカオンは人間に迫害されてきた歴史を持ち、時に「汚い犬」という不名誉な名前で呼ばれることもあります。
この記事でリカオンにはどんな特徴や秘密があるのか、一緒に見ていきましょう！
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～基本情報～
哺乳綱食肉目-イヌ科-リカオン属
体長80～110cm 体重18～36kg
リカオン最大の特徴は個体によって異なる、まるでペンキで描かれたような黒色と茶色、白色からなるぶち模様です。その他にもしっぽの先は必ず白色になること、耳が大きくて丸いこと、四肢（しし）が長いことも特徴といえます。
リカオンは基本的に複数のオスとメスのペアとその子どもたちから構成される、「パック」と呼ばれる群れで暮らしています。1つのパックには6～20頭のリカオンが所属していますが、かつてはもっと大きなパックも見られたそうです。リカオンは家族の絆が非常に強く、食べ物はパックのメンバーで公平に分け合い、ケガや病気で弱った仲間がいれば助けようとすることが知られています。
リカオンは１～1歳半で性成熟（せいせいじゅく）を迎え繁殖できますが、基本的に交尾と繁殖をするのはパックの中で最も優位なオスとメスの1ペアのみです。妊娠期間（にんしんきかん）は60～80日ほど、1回の出産で2～16頭（平均10頭）の子どもを産みます。生まれたての子どもの体重は300～500gほどで、子育ては群れのメンバーが一丸となって行います。
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リカオンのQ＆A
リカオンの名前の由来は何？
リカオンという名前の由来はギリシャ神話において最高神であるゼウスの怒りを買い、オオカミに姿を変えられた王「リュカオン（リュカーオーン）」だといわれています。
リカオンは英語では「African wild dog（アフリカンワイルドドッグ）」や「African hunting dog（アフリカンハンティングドッグ）」、「African painted dog（アフリカンペインテッドドッグ）」などさまざまな名前で呼ばれています。学名は“色を塗ったオオカミ”という意味の「Lycaon pictus」と表記され、日本においては「ハイエナイヌ」と呼ばれることもあります。
リカオンはどうしてそこに住んでいるの？
リカオンはアフリカのサハラ砂漠以南にある、草原やサバンナに生息しています。
なぜリカオンがアフリカを中心に生息しているのか、具体的な理由はわかりませんでした。しかしアフリカにはリカオンの競合となる大型のイヌ科動物、ハイイロオオカミやキツネが生息していないことと関係があるのかもしれません。
リカオンと同じイヌ科の動物（オオカミやコヨーテ、ドールなど）は世界中に生息していて、大型～中型の草食動物を捕食（ほしょく）しています。肉食動物であるリカオンはオオカミやコヨーテと同じように草食動物を捕食し、アフリカにおいて草食動物が増えすぎないように調整する役割を果たしているものと考えられます。
リカオンは何を食べているの？
リカオンは肉食性の動物で、主に中型の草食動物（インパラ、トムソンガゼル、リードバック、イボイノシシなど）を捕食していますが、病気やケガなどで弱っている大型の草食動物（ヌーやシマウマなど）に襲いかかることもあります。その他にもウサギやげっ歯類、鳥類などの小動物も食べます。
リカオンは時速50～60kmのスピードで長時間走り続けるスタミナを持っていて、スピードよりもスタミナを生かして獲物を追い詰めることが多いようです。狩りの成功率は非常に高く、その成功率はサバンナトップクラスの80%にもなるといわれています。（ライオンの狩りの成功率は30%ほど）
動物園では馬肉や鶏肉、ウシの内臓（レバーやハツ）、ドッグフードなどを食べていることが多いようです。
リカオンの狩りは残酷（ざんこく）って本当？
人によって感じ方は変わりますが、リカオンの狩りは残酷だと感じる人も少なくないようです。
リカオンの狩りは基本的に群れで行われます。狩りをする時はチームワークを生かし、1頭が脚にかみついて動きを止める間に他のメンバーが獲物のおなかにかみついて引き倒し、獲物が生きたまま内臓や肉を食べ始めます。
リカオンはこのような狩りの方法が残酷だと嫌われていますが、新鮮な肉を好み腐った肉は食べないという習性があること、体が小さくて獲物を長時間抑え込むことが難しいことから、このような狩りと食事の方法を取るのだと考えられています。
なおリカオンの獲物となった動物は他の肉食動物に襲われた時よりも短時間で絶命（ぜつめい）するため、苦痛を感じる時間が短いといわれています。獲物が捕まってから死ぬまでに要する時間は、平均して5分ほどだそうです。
リカオンのくしゃみには意味があるって本当？
本当です。リカオンは他の動物と比べても、くしゃみがとても多い動物であることが知られています。
かつてリカオンは人間と同じく、ただ鼻をすっきりさせるためにくしゃみをしていると思われていました。しかし観察や研究が進むにつれて、リカオンのくしゃみは人間にとっての挙手と同じような意味があると考えられるようになったのです。
リカオンは狩りに行きたくなると群れで「ラリー」と呼ばれる集会を開き、群れのメンバーの意見を確認します。そしてラリーの中ではなんと、くしゃみの数で狩りに行くかどうか決めているのだそうです。ちなみに群れの中での順位が高いリカオンほどくしゃみの回数が少なくても狩りに行くことが決まりますが、群れの順位が低いリカオンはたくさんくしゃみをしないといけないそうです。
なおこの行動をすることが確認されているのはボツワナに生息するリカオンだけで、他の地域に生息するリカオンがこの行動をするかどうかはわかっていません。
リカオンとハイエナにはどんな違いがあるの？
ところで同じアフリカに生息する肉食動物、リカオンとハイエナにはどんな違いがあるのでしょうか。
リカオンはイヌ科に属するイヌの仲間で、脚が長いものの体つきはイヌそのものです。しかし実は1つだけ、通常のイヌ科動物と大きく違うところがあります。というのもイヌ科の動物の指の数は一般的に前肢5本・後肢4本ですが、リカオンの前肢には私たちでいう親指にあたる「狼爪」（ろうそう）と呼ばれる指がなく、前肢も後肢も指の数が4本しかないのです。
一方のハイエナはイヌの仲間に似ていますが、実はイヌの仲間ではありません。彼らは「食肉目ハイエナ科」に分類されていて、分類的にはイヌよりもネコ（特に古いタイプのネコであるジャコウネコ）に近い動物とされています。また体長は86～150cm、体重50～90kgとリカオンよりもはるかに大きく、腰が下がる独特の体つきをしています。しかし面白いことに、ハイエナの指の数はリカオンと同じく前肢も後肢も4本（ハイエナの1種、アードウルフだけは前足の指が5本）です。
つまりリカオンとハイエナは分類的にも見た目的にも全く別の動物ですが、指の数は同じという特徴を持っているということです。なお動物の指の数は少なければ少ないほど、走ることに適しているものと考えられています。
リカオンはペットとして飼えるの？
ところで日本国内において、個人がペットとしてリカオンを飼うことはできるのでしょうか？
リカオンは日本の法律で人の命や財産に危険を及ぼす可能性がある、「特定動物（とくていどうぶつ）」に指定されています。令和2年6月1日以降新たに特定動物を愛玩目的（あいがんもくてき・ペットとして飼うこと）で飼うことは全面的に禁止されたため、日本国内においてリカオンをペットとして飼うことはできません。
日本でリカオンを見られる場所はあるの？
リカオンは生息数が非常に少ない絶滅危惧種の動物ですが、実は日本国内でも見られます。
令和3年現在、リカオンは神奈川県のよこはま動物園ズーラシアと静岡県の富士サファリパークの2か所で飼育されています。どちらの施設でもリカオンが群れで暮らす様子が観察できるので、遊びに行った時はじっくり観察してみると楽しめることでしょう。
リカオンはどのくらい生きるの？
リカオンの寿命は野生下で10～12年ほどだと考えられています。
しかし寿命に関する情報が少なく、飼育下での寿命に関する記録は見つかりませんでした。
リカオンにはどんな敵がいるの？
野生のリカオンにはほとんど天敵はいませんが、時にライオンやハイエナに襲われることがあります。特に子どもは他の肉食動物に狙われやすく、ライオンやハイエナ、ヒョウに襲われて食べられてしまうことも少なくありません。
しかしリカオンにとって最大の敵はライオンでもハイエナでもなく、私たち人間です。
リカオンは肉食動物ですが、人間を襲うことはほとんどありません。しかし家畜を襲ってしまうことがあるため長い間農民から迫害され、徹底的に駆除されてきました。さらにペットのイヌから狂犬病や犬ジステンパーなどのイヌ科動物特有の伝染病に感染してしまい、群れごと壊滅してしまうことも少なくありませんでした。
リカオンはネコ科動物であるライオンやヒョウのようになわばりを持たず、獲物を求めて広い範囲を移動する動物です。そんなリカオンが生きていくためには広大な土地が必要ですがアフリカは全体的に開発が進み、野生動物は保護区や国立公園に閉じ込められるような形になってしまっています。これらの保護区や国立公園は複数のリカオンの群れが生活するためには十分な広さとはいえず、彼らの将来は明るいとはいえないのが現状です。
かつてリカオンはアフリカ全土に50万頭いたとされていますが、今は5000頭ほどしかいないと考えられています。絶滅危惧種に指定されてはいますが、このままではリカオンが幻の動物になってしまう日はそう遠くないかもしれません。
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参考文献
今泉 忠明(2007年）『野生イヌの百科』データハウス
ナショナルジオグラフィック「リカオンの子ども、オカバンゴの動物」
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/9428/
ナショナルジオグラフィック「【動画】リカオンがくしゃみで投票、合意形成か」
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/17/090800342/
横浜市「横浜市動物園年俸 平成29年度」
https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/machizukuri-kankyo/midori-koen/zoo_garden/nenpou.files/0021_20190117.pdf
よこはま動物園ズーラシア「くらべてみました」
http://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/zoorasia/details/post-1117.php
千葉市動物公園「千葉市動物公園の見どころセブン+第37号 特集 意外にかわいいブチハイエナ」
https://www.city.chiba.jp/zoo/guide/documents/midokoros7-37.pdf
ITmedia NEWS「リカオンを汚い犬と呼ばないでリカオンを汚い犬と呼ばないで」
https://www.itmedia.co.jp/dc/articles/1512/28/news072.html
神戸 俊平、三原 学、リチャード・コック（1998）リカオン野生復帰計画報告
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjzwm/3/2/3_KJ00001517922/_pdf/-char/en
コトバンク「リカオン（動物）」
https://kotobank.jp/word/リカオン(動物)-1606238
コトバンク「リカオン」
https://kotobank.jp/word/リカオン-148412
TBS「いきもの」
http://www.tbs.co.jp/kodomotel/animal/20050619_2.html
