ワオキツネザル

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あなたはワオキツネザルという、キツネのような顔と白黒で長いしっぽを持った個性的なサルを知っていますか?
ワオキツネザルはアフリカのマダガスカル島にのみ生息する、非常に原始的なキツネザルの1種です。
日本国内の動物園ではよく見かけるワオキツネザルですが、実は野生では数を減らしてしまい、絶滅の危機に瀕しています。
この記事でワオキツネザルにはどんな特徴や秘密があるのか、一緒にその暮らしをのぞいていきましょう!


~基本情報~

哺乳綱(ほにゅうこう)霊長目(れいちょうもく)-キツネザル科

体長 39〜46cm
体重 2.3〜3.5kg

ワオキツネザルはマダガスカル島の森林に生息する、“原猿類(げんえんるい)”と呼ばれる非常に原始的なサルの1種です。主に木の上で暮らす樹上性(じゅじょうせい)のサルですが、地上を移動することも多く、キツネザルの仲間の中で最も地上にいる時間が長いことが知られています。野生では明るい時間に活動する昼行性(ちゅうこうせい)の動物で、通常5~20頭ほどの群れを作って生活しています。群れの中ではメスの方が強く、最も地位が低いメスよりもオスの地位の方が低いようです。

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ワオキツネザルの特徴はその名前の由来にもなっている、白黒の輪のような模様のしっぽです。しっぽは生まれつきこの模様で、成長しても輪の数が増えたり減ったりすることはありません。またジャンプ力が優れているという特徴も持っていて、助走なしで3m以上も飛べるといわれています。

ワオキツネザルのオスは生後2年半、メスは生後1年8カ月ほどで性成熟(せいせいじゅく)を迎えて、繁殖ができるようになります。妊娠期間(にんしんきかん)は4~4カ月半ほどで、1回の出産で通常1~2頭の子どもを産みます。

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ワオキツネザルのQ&A

ワオキツネザルの名前の由来は何?

まずは「ワオキツネザル」という、少し変わった名前の由来を見て行きましょう。

ワオキツネザルを漢字にすると、「輪尾狐猿」と表現されます。そう、ワオキツネザルはその特徴的な白色と黒色のしま模様(輪)になったしっぽ(尾)からその名前が付けられたのです。

ちなみに「キツネザル」はその名前の通り、キツネのような顔をした原始的なサルの仲間のことを指します。キツネザルの仲間は鼻先からくちびるにかけて毛がないこと、イヌのように鼻先が湿っていることが特徴で、マダガスカル島にだけ生息しています。

なおワオキツネザルの学名は「Lemur catta」で、英語では「Ring-tailed Lemur」と表現されます。

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ワオキツネザルはどうしてそこに住んでいるの?

ワオキツネザルはアフリカ大陸の東海岸から400km東に位置する、マダガスカル島にだけ生息している“固有種(こゆうしゅ)”の動物です。

マダガスカル島はかつて巨大な大陸の一部でしたが、今から8800万年ほど前に切り離されて島として独立しました。そしてその時に島に取り残された動物たちは古い時代の特徴を残したまま、独自の進化を遂げていきました。その結果、現在マダガスカル島に生息する動物の70~80%が固有種だといわれています。

ワオキツネザルをはじめとしたキツネザルの仲間もマダガスカル島で進化してきた固有種で、その仲間は実に107種にのぼると考えられています。

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ワオキツネザルは何を食べているの?

ワオキツネザルは雑食性の動物で、野生では果実、花、木の葉、サボテン、昆虫などあらゆるものを食べています。

動物園では果物(リンゴ、バナナなど)や野菜(キャベツ、コマツナ、サツマイモ、ニンジンなど)に加えて、青草や木の葉、サル用のペレットなどを与えているようです。

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ワオキツネザルのしっぽにはどんな役割があるの?

ところでワオキツネザルの長くてしましま模様のしっぽには、どんな役割があるのでしょうか?

実はその長いしっぽは、仲間同士の連絡手段に使用されていると考えられています。ワオキツネザルが暮らすマダガスカル島は背の高い草木がたくさん生えているため、普通に歩いていると草木に埋もれてしまい、自分や仲間がどこにいるかわかりません。そのためワオキツネザルはしっぽを立てて移動することで、仲間に「自分はここにいるよ」と知らせているのです。

またワオキツネザルは手首の内側に黒いツメのような臭腺(しゅうせん)を持っていて、オスは繁殖期になると臭腺から出る臭いをしっぽにこすりつけます。そしてメスや他のオスに向かってしっぽを大きく揺らすことでメスにはアピールを、敵対するオスには威嚇を行うそうです。

なおワオキツネザルのしっぽの黒い輪の数は決まっていて、年齢や性別を問わず、必ず14本か15本なんだそうです。

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ワオキツネザルはどんな性格なの?

ワオキツネザルはとても穏やかで、好奇心旺盛かつ友好的な性格だと言われています。

群れで生活することから仲間を大切にし、人間に対してもよくなつきます。また好奇心旺盛な一面も持っていて、何か興味をひかれるものを見つけるとすぐに近寄るそうです。

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ワオキツネザルは日光浴が好きって本当?

本当です。

ワオキツネザルは原始的なサルであり、ほ乳類ではあるもののあまり体温調節が得意ではありません。そのため太陽に向かって座り、日光の力を利用して体を暖める習性を持っています。

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ワオキツネザルはペットとして飼えるの?

ところで日本国内において、ワオキツネザルをペットとして飼うことはできるのでしょうか?

ワオキツネザルは愛らしい性格と見た目をしていることから、かつてはペットとして人気のある動物でした。しかしペット用にたくさん捕獲されたことに加え、生息地が開発によって減少したことから数を大きく減らしてしまいました。そのため生息地であるマダガスカル島では1962年以来、ペット向けにワオキツネザルを含む“キツネザルの仲間“を取引することが禁止されているそうです。

現在ワオキツネザルは「キツネザル科全種(Lemuridae spp.)」として、国際的に野生動植物を守るための取り決めである「ワシントン条約」(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)において、 “絶滅のおそれのある種で取引による影響を受けている又は受けるおそれのあるもの“である「付属書Ⅰ」(ふぞくしょ)に掲載されています。

付属書Ⅰに掲載されている動物は「学術研究目的」かつ、「輸出国・輸入国双方の許可書が得られる場合」のみ取引ができると定められています。そのため現在ペットとして飼育する目的で、ワオキツネザルを海外から輸入することはほぼ不可能だと考えられます。

またワオキツネザルは私たち人間と同じ「霊長目(サル目)」に属する動物であることから、イヌやネコといった動物たちより、人間と動物が共通してかかる感染症「人獣共通感染症(じんじゅうきょうつうかんせんしょう)」の種類が多いといわれています。つまり人間の病気がワオキツネザルに感染することもあれば、ワオキツネザルの病気が人間に感染することもあるということです。そのためワオキツネザルと関わる時は、特に自分自身とワオキツネザルの衛生状態をしっかりと管理しなければなりません。

先ほども説明した通り、現状ワオキツネザルを入手・飼育すること自体が困難ではあります。しかしもしワオキツネザルを飼育できる状況になったとしても、上記のような知識が必要であると覚えておいた方が良いでしょう。

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ワオキツネザルが見られる動物園はあるの?

ワオキツネザルは北海道の「札幌市円山動物園」、埼玉県の「埼玉県こども動物自然公園」、静岡県の「静岡市立日本平動物園」、京都府の「京都市動物園」、和歌山県の「アドベンチャーワールド」など多くの動物園で飼育されています。

ワオキツネザルは3月頃に出産をすることが多く、毎年多くの動物園で赤ちゃんが生まれています。ワオキツネザルの赤ちゃんが見たい方は、春ごろに各動物園のホームページやSNSをチェックしてみると良いかもしれません。

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ワオキツネザルはどのくらい生きるの?

ワオキツネザルの寿命は野生下では約15年、飼育下では約25年だと考えられています。

ワオキツネザルも多くの動物と同じように、十分な食べ物を安定的に得ることができ、天敵がいない飼育下の方が長生きする傾向にあります。

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ワオキツネザルにはどんな敵がいるの?

ワオキツネザルが生息するマダガスカル島には、トラやオオカミといった大型の肉食動物が存在しません。とはいえ野生のワオキツネザルにも天敵はいて、それはワシやタカなどの猛禽類(もうきんるい)だといわれています。

しかしワオキツネザルにとって、一番の敵は私たち人間です。ワオキツネザルはマダガスカル島という、きわめて限られた範囲にだけ生息している動物です。そんなワオキツネザルが住む森林が家畜の放牧場や畑を作るための開発によって切り開かれ、失われ続けています。そして住む場所を奪われた彼らは、どんどんその生息数を減らしてしまっています。

また「ワオキツネザルはペットとして飼えるの?」でもお話ししたとおり、現在マダガスカル島ではペットとしてワオキツネザルの取引をすることが禁じられています。しかしマダガスカル島では貧困に苦しむ人が多く、今でもペットや食用にするための密猟が絶えないのが現状です。

マダガスカル島では大規模な干ばつとそれによる食料不足が続いていて、現地に住む人たちは飢えや栄養不足に苦しんでいます。そんなマダガスカル島の人たちや自然をどうやったら守っていけるのか、遠い日本に住む私たちも一度考えてみた方がよいのかもしれません。

なおワオキツネザルは国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストにおいて、野生で非常に高い絶滅のリスクに直面している種として「EN(危機)」に分類されています。

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参考文献

IUCN REDLIST「Ring-tailed Lemur」
https://www.iucnredlist.org/ja/species/11496/115565760

東京ズーネット「どうぶつ図鑑 クロシロエリマキキツネザル」
https://www.tokyo-zoo.net/encyclopedia/species_detail?code=20

朝日新聞デジタル「日光浴好きなワオキツネザル カメラ、三脚にも興味津々」
https://www.asahi.com/articles/ASL8K5TT2L8KUEHF008.html

札幌市円山動物園「ワオキツネザル」
https://www.city.sapporo.jp/zoo/107-m.html

高知県立「高知県のいち動物公園」
https://noichizoo.or.jp/park/zoo/tropical/ring-tailed-lemur.html

鹿児島市 平川動物公園「ワオキツネザル」
https://hirakawazoo.jp/zukan/bunrui/mammal/134

ときわ動物園「12月19日 輪尾(ワオ)」
https://www.tokiwapark.jp/zoo/staffblog/diary/post-206.html

NIFREL「キュレーターブログ 2021.09.16WOWな役割」
https://www.nifrel.jp/detail/matome/2021/09/wow-1.html

毎日新聞「アニマル・ワールド ワオキツネザル」
https://mainichi.jp/maisho/articles/20161015/kei/00s/00s/011000c

AFP BBNews「マダガスカルのキツネザル、ほぼ全種が「絶滅の危機」 レッドリスト」
https://www.afpbb.com/articles/-/3293065

外務省「マダガスカル共和国」
https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000467840.pdf

東京大学「ワオキツネザルのメスを惹き付けるオスの匂い ―霊長類のフェロモン様物質の同定に初めて成功―」
https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/topics_20200417-1.html

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