プレーリードッグ

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あなたはプレーリードッグという、北アメリカに生息している草食動物を知っていますか?
プレーリードッグは地上で生活するリスの1種で、地面に大きな巣穴を掘って仲間と一緒に暮らしている動物です。
動物園でよく飼育されていること、ときおりペットとして飼っている人がいることから「見たことがあるよ!」という人も多いのではないでしょうか。
この記事でプレーリードッグにはどんな特徴や秘密があるのか、一緒にその暮らしをのぞいていきましょう!

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~基本情報~

哺乳綱(ほにゅうこう)げっ歯目(げっしもく)-リス科

体長 30~40cm
体重 0.7~1.4Kg

プレーリードッグは北アメリカ中部の草原に生息する、げっ歯類の1種です。全部で5種類の仲間がいますが、日本の動物園やペットとして飼育されているのはほぼ100%「オグロプレーリードッグ」であることから、この記事では基本的にオグロプレーリードッグについて説明していきます。

オグロプレーリードッグは体の色は赤褐色でしっぽの先だけ黒色になっていることが特徴で、このしっぽの色が名前の由来になっています。地面に穴を掘って作った巣穴に群れで暮らす習性があり、「コテリー」と呼ばれる小さな家族のグループが寄り集まった、「タウン(コロニー)」と呼ばれる大きな集団を作って暮らしています。コテリーはオス1頭に対してメス3~4頭とその子どもから構成されていて平均6頭のプレーリードッグが所属していますが、時には20頭をこえるとても大きなコテリーも存在するようです。

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プレーリードッグの繁殖は年に1回で、基本的には冬の終わりから春のはじめ頃に繁殖期を迎えます。妊娠期間(にんしんきかん)は33~38日で、プレーリードッグのお母さんは1回に1~8頭(平均4~5頭)の子どもを産みます。プレーリードッグの赤ちゃんはとても小さく、体長7cm・体重15gほどという、毛も生えず目も開いていない未熟な状態で生まれてきます。その後生後3週間ほどで少しずつ毛が生えはじめ、生後5週間ほどになってようやく目が開きます。

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プレーリードッグのQ&A

プレーリードッグの名前の由来は何?

プレーリードッグの名前の由来はプレーリードッグが住んでいる場所、そして鳴き声にあるといわれています。

プレーリードッグは「プレーリー(草原)」に生息している、危険が迫るとイヌ(ドッグ)のような甲高い声で鳴く動物です。そのため“草原に生息しているイヌのような(鳴き声の)動物”、というところから草原のイヌ「プレーリードッグ」という名前がつけられたそうです。

ちなみにプレーリードッグは英語でも「Prairie Dog」と表現され、学名は“ネズミイヌ”という意味がある「Cynomys」と表現されます。

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プレーリードッグはどうしてそこに住んでいるの?

プレーリードッグは北アメリカ中部の草原に生息しています。

プレーリードッグがなぜこの場所に生息しているのか、はっきりとした理由はわかりませんでした。しかしプレーリードッグの食べ物となる植物が多く生えていること、巣穴を掘れる地面が多いことも理由の1つなのではないかと考えられます。

なお現在のプレーリードッグは200~300万年ほど前に、プレーリードッグと同じ地上で生活するリスの仲間「ジリス」から派生した動物だと考えられています。もともとは木の上で生活するリスと同じように長い耳としっぽを持っていたようですが、地上で生活するうちに耳としっぽは退化して小さくなったようです。

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プレーリードッグは何を食べているの?

プレーリードッグは草食性の動物で、野生では草原に生えている草や草の根、種子や木の実、昆虫などを食べています。

動物園では牧草(チモシー、イタリアンライグラスなど)を中心に野菜(キャベツ、コマツナ、ニンジンなど)、ペレットなどを食べていることが多いようです。

プレーリードッグはとても器用で、物を食べる時は前足で食べ物をつかんで口元に持っていきます。

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プレーリードッグはなぜ立つの?

プレーリードッグといえば後ろ足で立ち上がり、キョロキョロとまわりを見回している姿を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。それではなぜ、プレーリードッグはよく立ち上がるのでしょうか?

プレーリードッグが立ち上がる理由、それは天敵を警戒するためです。野生のプレーリードッグには天敵が多く、常にプレーリードッグを捕まえて食べようとする動物たちに狙われています。そのためプレーリードッグは立ち上がってできるだけ視野を広げ、天敵が少しでも遠くにいるうちに見つけようとしているのです。

なおプレーリードッグの群れが食事をする時は、必ず1頭以上のプレーリードッグが立ち上がって周囲を警戒しています。プレーリードッグは視野が広く、左右の目を使って周りを見渡すとほぼ360度の視野があるといわれています。

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プレーリードッグの巣穴はどんな作りになっているの?

プレーリードッグは地面に巣穴を作って暮らす動物ですが、その巣穴はどんな作りになっているのでしょうか?

プレーリードッグの巣穴の中はたくさんの通路や部屋にわかれていて、部屋ごとに食べ物の貯蔵庫や子ども部屋・寝室・トイレといった役割が決まっています。巣穴の深さは2〜5m、直径は10~30cmほど、長さは平均5~10mですが30mにもなることもあり、トンネルの中は温度や湿度が保たれていて、夏は涼しくて冬は暖かいそうです。なお巣穴の出入り口は土が盛られて塚のようになっていて、大雨が降った時に巣に水が入らないような仕組みになっています。

プレーリードッグのツメは長くて硬く、地面の硬さを物ともせず穴を掘ることができます。プレーリードッグが穴を掘る時は前足で土を掘り、後ろ足で土を蹴り飛ばしながらどんどん穴を掘っていきます。なおプレーリードッグが掘った穴はアナホリフクロウやヘビ、クロアシイタチなど、他の動物も利用することが知られています。

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プレーリードッグは仲間を生き埋めにすることがあるって本当?

本当です。
プレーリードッグは発情を迎えると、非常に凶暴になることが知られています。ペットのプレーリードッグでも特にオスはそれまで人になついていたことが夢のように思えるほど凶暴になり、あらゆるものに対して威嚇(いかく)や攻撃を仕掛けてくるようになります。

そんな発情中のオスの元に競争相手が現れると、オスたちはメスとなわばりを巡って激しく争い、時には競争相手を生き埋めにしてしまうことがあります。生き埋めにされたオスは逆側の入り口から抜け出して逃げられることもありますが、そのまま死んでしまうことも珍しくないようです。なおメスも発情を迎えるとオスほどではないものの神経質になり、エサを食べなくなることがあります。

またプレーリードッグは意外と苛烈(かれつ)な面を持っていて、同じげっ歯目リス科の動物「ジリス」に食べる目的ではなく、単に殺す目的で襲いかかるところが目撃されています。この行動はプレーリードッグとジリスが食べる物がほぼ同じであることから、自分や仲間が食べる物をより多く確保するために行われているのではないかと考えられています。

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プレーリードッグはどんな性格なの?

プレーリードッグは基本的には社会性があり、仲間思いな性格だといわれています。

仲間同士が出会うと鼻先をくっつけたり、頬をすりあわせたりしてコミュニケーションを取る姿が見られます。

また社会性があることから人に慣れやすく、人を仲間だと認めるととても甘えん坊になる個体が多いといわれています。人になついたプレーリードッグはなでたりひざの上に乗せたりといったふれあいができるようになるほか、自分から遊んで欲しいと要求してくることも多いようです。

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プレーリードッグはペットとして飼えるの?

ところでプレーリードッグをペットとして飼うことはできるのでしょうか?

日本においてプレーリードッグはペットとして飼育できる動物で、かつてはその愛らしい見た目からペットとして人気が高く、ペットショップでもよく見かける動物でした。しかしプレーリードッグ(プレーリードッグに寄生しているノミ)が「ペスト」という感染症の原因となる可能性があるという指摘を受け、感染症予防の観点から2003年にプレーリードッグを輸入することが禁止され、2021年現在も輸入禁止の状態が続いています。

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輸入禁止の状態とはいえ、2003年までに国内で飼育されていたプレーリードッグやその子どもを飼育することは可能です。現在日本国内で飼育されているプレーリードッグは当時飼育されていた個体の子孫ですが、輸入禁止の状態が続いていることから国内にいるプレーリードッグの数はどんどん減ってしまっています。そして個体の減少とともに値段がつりあがってしまい、入手すること自体がやや困難な状況が続いています。

なおプレーリードッグを飼育するにあたり、基本的には特別な許可は必要ありません。ただし北海道においてはプレーリードッグとフェレットが「特定移入動物」に指定されているため、飼育する際には知事に届け出をしなければなりません。

ちなみにプレーリードッグはリスの仲間ですが、飼育する時は必ずイネ科の牧草(チモシー、イタリアンライグラスなど)を主食にしてください。プレーリードッグに甘い果物や木の実や植物の種(クルミやヒマワリの種など)を与えると喜びますが、これらを与えすぎると肥満の原因となってしまいます。プレーリードッグも人間と同じく肥満になると病気になりやすくなり、寿命を縮める原因となることを覚えておいてください。

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プレーリードッグが見られる動物園はあるの?

プレーリードッグの仲間は全部で5種類いますが、日本国内で飼育されているのは「オグロプレーリードッグ」のみです。

オグロプレーリードッグは東京都の上野動物園、静岡県の日本平動物園、鹿児島県の鹿児島市平川動物公園など多くの動物園で飼育されています。

なおオグロプレーリードッグはもともと生息地や生息数が多いこと、社会性があること、そして冬眠をしないことからプレーリードッグの中でも特に飼育しやすい種類だとされています。

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プレーリードッグはどのくらい生きるの?

プレーリードッグの寿命については諸説がありますが、野生下で3~5年、飼育下で7~10年ほどではないかといわれています。

特に野生のプレーリードッグは寿命が短く、生まれた赤ちゃんのうち実に半分以上が生後1年以内に死んでしまうといわれています。これはプレーリードッグを食べる天敵が多いのはもちろん、プレーリードッグ同士で共食いをする事例が多いことも理由の1つだと考えられます。

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プレーリードッグにはどんな敵がいるの?

プレーリードッグには天敵となる動物が多く、野生においては常にコヨーテやボブキャット、キツネやピューマ、ヘビ、猛禽類(タカやワシ)などの肉食動物に狙われています。

しかしプレーリードッグにとって、最大の敵は私たち人間です。
プレーリードッグは地面に巣穴を掘って暮らす習性があるため、牧場や畑などにプレーリードッグがいると地面のあちこちが穴だらけになってしまいます。そのためかつてのアメリカではプレーリードッグが掘った穴に家畜(ウシやウマ)がはまって足の骨を折ってしまう可能性があること、家畜が食べる牧草を食べてしまうこと、農作物や畑を荒らすことから彼らは害獣として嫌われて積極的に駆除されていました。プレーリードッグの駆除には毒や銃が使われ、生け捕りにする時は巣の中にいるプレーリードッグを吸い取る掃除機のような機械が使われることもあったそうです。

かつての北アメリカには、50億頭ものプレーリードッグがいたと考えられています。しかし大規模な駆除と生息地の破壊が進んだ結果、なんと98%ものプレーリードッグが死んでしまいました。その結果50億頭もいたはずのプレーリードッグは、1970年頃には絶滅の危機に陥ってしまったのです。

その後動物に関する研究が進みプレーリードッグが絶滅の危機に瀕していることが判明し、さらにプレーリードッグがいないと生きていけない動物(プレーリードッグを主食にするクロアシイタチ、プレーリードッグが掘った穴を巣穴にするアナホリフクロウなど)がいることが判明した結果、プレーリードッグは保護される対象になりました。保護活動の結果オグロプレーリードッグ、オジロプレーリードッグ、ガニソンプレーリードッグの3種は絶滅の恐れが少なくなったといわれていますが、今もメキシコプレーリードッグとユタプレーリードッグの2種は絶滅してしまうのではないかと心配されています。

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プレーリードッグの中でも特に絶滅の可能性が高い「メキシコプレーリードッグ」は国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは「絶滅危機(EN)」に、「ワシントン条約」の “絶滅のおそれのある種で取引による影響を受けている又は受けるおそれのあるもの“として「付属書Ⅰ」(ふぞくしょ)に分類されています。

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プレーリードッグの種類

・オグロプレーリードッグ
・オジロプレーリードッグ
・メキシコプレーリードッグ
・ガニソンプレーリードッグ
・ユタプレーリードッグ



参考文献

霍野 晋吉(2005年)『プレーリードッグ・ジリスの医・食・住』どうぶつ出版

霍野晋吉,横須賀 誠(2019年)『カラーアトラスエキゾチックアニマル 哺乳類編 増補改訂版 ─種類・生態・飼育・疾病─』緑書房

盛岡市動物公園「ZOOもりおか第19号2010」
http://moriokazoo.org/image/event/2010.pdf

札幌市円山動物園「オグロプレーリードッグ」
https://www.city.sapporo.jp/zoo/b_f/b_06/db186.html

ナショナルジオグラフィック「動物大図鑑 プレーリードッグ」
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20141218/428895/

ナショナルジオグラフィック「リスを殺すプレーリードッグは繁栄、米研究」
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/032500108/

厚生労働省「プレーリードッグの輸入禁止に伴う対応について」
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb8588&dataType=1&pageNo=1

北海道 空知総合振興局「動物の管理」
http://www.sorachi.pref.hokkaido.lg.jp/hk/kks/kansei/kanri/dobutukanri.htm

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