ホッキョクグマ
ホッキョクグマ
ホッキョクグマ
あなたはホッキョクグマという、白くて大きい体が特徴のクマの1種を知っていますか? ホッキョクグマは動物園やテレビ番組などで見かける機会も多く、いろいろなキャラクターのモチーフにもなっているので「ホッキョクグマが好き」という人も多いかもしれません。 そんなホッキョクグマの体には、とても寒い北極の地で生き抜くための面白い秘密がたくさん隠されています。 この記事でホッキョクグマにはどんな特徴や秘密があるのか、一緒にのぞいていきましょう!
ホッキョクグマ 基本情報
哺乳綱(ほにゅうこう)-食肉目-クマ科
体長 オス2~2.5m メス1.8~2m 体重 オス400~600Kg メス200~350Kg
ホッキョクグマはクマの1種であり、地上最大の肉食動物です。北極圏に生息する彼らの体は大きくて耳は小さく、さらに2重構造になった毛とぶ厚い皮下脂肪、足の裏までびっしりと生えている毛など非常に寒い場所で暮らすことに適応した作りをしています。
ホッキョクグマは基本的に単独で生活する動物ですが、繁殖期のオスとメス、そして子育て中のメスだけは子どもと一緒に行動します。ホッキョクグマのオスは生後5~6年、メスは6年ほどで性成熟(せいせいじゅく)を迎えて妊娠や繁殖ができるようになります。繁殖期は3~6月頃で妊娠期間(にんしんきかん)は195~265日ほど(※着床遅延の時期を含む)、1回の出産で1~4頭(平均2頭)の子どもを産みます。
子育てはメスだけが行い、オスが子育てに参加することはありません。むしろオスのホッキョクグマは親子のホッキョクグマに出会うと、子どもに襲い掛かって食べてしまうこともあります。子どもは母親と一緒に暮らす間に北極で生きていくために必要なことを学び、生後2~3年ほどで親元を離れて独立します。
ホッキョクグマ Q&A
ホッキョクグマの名前の由来は何?
ホッキョクグマはなぜ「ホッキョクグマ」と呼ばれるようになったのでしょうか?その名前の由来を辿っていくと、日本最古の動物園・上野動物園にたどり着きます。
ホッキョクグマが初めて日本にやってきたのは1902年で、この時上野動物園ではアルビノで体が白いツキノワグマを飼育していたそうです。そして白いツキノワグマと北極の白いクマを区別するために、北極から来た白いクマのことを「ホッキョクグマ」と呼ぶことにしたそうです。そしてそのままその名前が定着し、今に至るという訳です。
ホッキョクグマは英語では「Polar bear」、漢字では「北極熊」と表現され、別名「シロクマ」と呼ばれることもあります。学名は「Ursus maritimus(Thalactos maritimus)」で、“海に住むクマ”という意味がこめられています。
ホッキョクグマはどうしてそこに住んでいるの?
ホッキョクグマは北極圏にのみ生息している動物です。巨大な氷に覆われた北極圏は一見住みにくそうな場所に思えますが、なぜホッキョクグマは北極圏にだけ生息しているのでしょうか?
それは北極圏が意外にも、たくさんの動物が生活する豊かな生態系が築かれている場所だからです。北極圏は春になるとたくさんの植物プランクトンが発生するため、植物プランクトンをエサに貝類や甲殻類(こうかくるい)が集まり、さらに魚類や鳥類が集まってきます。それらを求めてアザラシやイルカ、ホッキョクグマなどの海で暮らす哺乳類たちが集まりそこで暮らしているのです。
ホッキョクグマは何を食べているの?
ホッキョクグマは肉食性の動物で、いろいろな動物を捕まえて食べています。
主な獲物は若いワモンアザラシですが、アゴヒゲアザラシやタテゴトアザラシ、セイウチやシロイルカなども食べます。狩場となる海氷(かいひょう)がない夏場はトナカイや死んだクジラの肉、海鳥とその卵、魚、植物などを食べていますが、何カ月も何も食べずにアザラシを狩れる時期を待つホッキョクグマも少なくありません。獲物を捕らえると主に脂肪を食べるホッキョクグマにとっては、体脂肪の多い若いワモンアザラシは一番のごちそうなのです。
ホッキョクグマの狩りは待ち伏せもしくは忍び寄りの手法がよく使われています。待ち伏せをする時はアザラシが息継ぎのために顔を出す氷の穴を探してひたすら待ち、アザラシが顔を出したところで襲いかかります。この時何時間もひたすらじっと待ち続けることもあるそうです。忍び寄りをする時は海氷の上で休んでいるアザラシを探し、アザラシに気づかれないようにそっと泳いで近づきます。そしてアザラシの近くまできたら潜水したり氷に身を隠したりしながらさらに近づき、海の中から一気に飛び出して襲い掛かります。
動物園では馬肉や鶏肉、ホッケやアジなどの魚類、肉食動物用のソーセージやリンゴ、サツマイモなどを与えることが多いようです。
ホッキョクグマは泳ぎが得意って本当?
本当です。 ホッキョクグマは頭が小さくて首が長い流線形で、水の抵抗を受けにくく泳ぎに適した体型をしています。そして前脚をオールのように、後脚を舵(かじ)のように使い、北極の凍るように冷たい海の中を1~10日もの間休まずに泳ぎ続けることができます。今のところ最長で9日連続、なんと東京と北海道の函館間の距離に相当する687キロもの距離を泳いだという事例が確認されています。
ホッキョクグマは獲物となるアザラシ、そしてアザラシを狩る場所となる海氷を求めて北極海を泳いで移動します。しかし近年は地球温暖化の影響でホッキョクグマが狩場として使える海氷は少なく狭くなってしまい、生きるために仕方なく長い距離を泳がざるを得ない状況におちいっています。
ホッキョクグマの皮膚が黒いって本当?
本当です。 ホッキョクグマは別名「シロクマ」と呼ばれることからもわかる通り、体が白く見える動物です。しかし実は地肌は黒色で、太陽光を効率よく吸収できるような仕組みになっています。
ではなぜホッキョクグマは白く見えるのでしょうか?その秘密は彼らの毛にあります。ホッキョクグマの毛は実は白色ではなく透明で、中はストローのような空洞になっています。この空洞が断熱材のような役割をするためホッキョクグマは凍るように寒い北極でも体温を保てるのはもちろん、この空洞は泳ぐ時に浮力を得るためにも役立っているようです。そしてこの透明な毛と黒い地肌に太陽光が当たって反射を繰り返すことにより、ホッキョクグマは白色に見えていると考えられています。
なお夏場になると、動物園のホッキョクグマの毛が緑色になってしまうことがあります。これは毛の中の空洞に藻(も)が入りこんで繁殖してしまっている状態で、この状態は俗に“ミドリグマ”と呼ばれています。なぜ空洞の中に藻が入りこんでしまうのか詳しい理由はわかっていませんが、冬毛に換毛すれば元の白色に戻るため、特にホッキョクグマの健康状態に影響はないといわれています。
ホッキョクグマは冬眠をするの?
いいえ、ホッキョクグマはクマの仲間ですが通常冬眠(※)はしません。
妊娠したメスは真っ暗な巣穴の中で約3か月もの間冬ごもりをして、絶食(ぜっしょく)状態で出産と育児を行います。しかしこの時も他のクマのように、体温や体の機能を下げた冬眠状態になっている訳ではありません。なお野生のホッキョクグマはアザラシが捕れない時期には体温と体の機能を下げてエネルギーを節約する、冬眠に近い状態にはなるそうです。
※冬眠とは 寒い時期に動物がエサを食べたり運動したりといった活動をやめて、体温や体の機能を下げた状態で気温が上がる時期まで過ごすことを指します。冬眠をする動物は限られていますが、哺乳類では一部のクマやリス、コウモリやネズミなどが、そしては虫類や両生類などの変温動物(ヘビやカエル、カメなど)が冬眠を行うことが知られています。
どうしてホッキョクグマの妊娠期間にはバラツキがあるの?
ホッキョクグマのメスには「着床遅延(ちゃくしょうちえん)」という現象が見られるからです。
動物のオスとメスが交尾を行ってメスのおなかの中で精子と卵子が出会うと、受精卵(じゅせいらん)ができます。通常受精卵はそのまま子宮に着床(ちゃくしょう)し、そこから胎児(たいじ)が発育していきます。
しかしホッキョクグマをはじめとしたクマの仲間は受精卵ができた後、受精卵がすぐにメスの子宮に着床せずおなかの中で発育を止める「着床遅延」という現象が起きることが知られています。着床遅延が起きる理由は出産の時期を調整することで、一番良い状態で赤ちゃんを産むためだと考えられています。そのためクマの仲間は交尾から出産に至るまでの日数にかなりバラツキが見られるのです。
なおホッキョクグマの赤ちゃんは体重が500g程度と、非常に小さい状態で生まれてきます。しかしその分ホッキョクグマの母乳(ぼにゅう)は非常に脂肪分が多く、全体の33%程度が脂肪という非常に栄養豊富で濃厚なものになっています。(人間の母乳の脂肪分は3.5%程度)子グマはたっぷりと栄養がつまった母乳をおなかいっぱいになるまで飲み、すくすくと成長していきます。このように“小さく生んで大きく育てる”のがクマ流の子育て方法だといわれています。
ホッキョクグマはペットとして飼えるの?
ところでホッキョクグマは日本国内において、ペットとして飼えるのでしょうか?
ホッキョクグマを含むクマの仲間は全種類が日本の法律で人の命や財産に危険を及ぼす可能性がある、「特定動物(とくていどうぶつ)」に指定されています。令和2年6月1日以降新たに特定動物を愛玩目的(あいがんもくてき・ペットとして飼うこと)で飼うことは全面的に禁止されたため、日本国内においてホッキョクグマをペットとして飼うことはできません。
海外ではホッキョクグマをペットとして飼っている人もいるようですが、自宅で数百キロもの体重がある動物を飼うのは非常に困難なことです。なぜなら人に慣れているホッキョクグマであっても、遊んでいるつもりの一撃で人間が大ケガをしたり、最悪の場合死んでしまったりする可能性があるからです。
ホッキョクグマはどのくらい生きるの?
ホッキョクグマの寿命は野生下でも飼育下でも、おおよそ25~30歳だといわれています。
国内最高齢のホッキョクグマは令和3年まで宮城県の八木山動物公園で飼育されていたメスのホッキョクグマ「ナナ」で、人間に換算すると100歳以上となる36歳まで生きました。
ちなみに世界最高齢のホッキョクグマは2008年までカナダのAssiniboine Parkという動物園で飼育されていたメスのホッキョクグマ「デビー」で、彼女はなんと42歳まで生きたそうです。デビーは母親とはぐれた状態で見つかった野生由来の個体で、ホッキョクグマの最長寿の個体としてギネス記録に認定されています。
ホッキョクグマにはどんな敵がいるの?
野生のホッキョクグマにはほぼ天敵はいませんが、泳いでいる時にシャチに襲われることがあるようです。また子どものホッキョクグマにとっては、オスのホッキョクグマや猛禽類(もうきんるい)も天敵だといえます。
しかし悲しいことに、実はホッキョクグマにとっての一番の敵は私たち人間です。人間の活動による地球温暖化の影響が原因で北極の海氷が解けてしまい、ホッキョクグマが安全に狩りや子育てができる場所が減ってしまっているのです。
また有害な化学物質が風や海水に乗って北極に運ばれていて、その影響でホッキョクグマの病気に対する抵抗力が弱まる、生殖器への奇形が確認されるなどの影響が出てきてしまっているそうです。有害物質は生態系の頂点にいる動物ほど体にたまってしまう傾向があるため、北極圏の生態系の頂点にいるホッキョクグマは特に影響を受けやすいとされています。
現在ホッキョクグマは絶滅危惧種に指定されて国際的に保護されていますが、このような理由からいずれ絶滅してしまうのではないかと心配されています。なお北極の先住民族であるイヌイットの人たちは昔からホッキョクグマを狩り、その肉や毛皮を利用してきました。そのため今も決められた範囲の頭数内、かつ生計を立てるために必要であればホッキョクグマを狩猟できる権利を持っているそうです。
ホッキョクグマを守るためにはどんなことができるの?
現在地球上には推定26,000頭のホッキョクグマが生息していますが、このまま地球温暖化が進行すると2100年までに野生のホッキョクグマは絶滅してしまうのではないかと考えられています。ではホッキョクグマを絶滅させないために、私たちにはどんなことができるのでしょうか?
残念なことに、日本に住む私たちが遠い北極の地に住むホッキョクグマに対して直接できることはほぼありません。しかしホッキョクグマを苦しめる原因の1つである地球温暖化に対しては、電気の無駄遣いをしないように冷房や暖房の温度を調整したり、こまめに電気を消したり、なるべく自家用車でなく公共交通機関を使ったりといった小さな努力を積み重ねることはできます。
私たち1人1人の力は本当に小さなものです。ですが多くの人が環境に意識を向けて少しずつ無駄を減らすような生活を心がければ、その動きはいずれ大きな力になるはずです。
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ホッキョクグマ 参考文献
- Web東奥「36歳ホッキョクグマ死ぬ、仙台 国内最高齢、八木山動物公園」 https://www.toonippo.co.jp/articles/-/466818
- WWFジャパン「ホッキョクグマの生態と、迫る危機」 https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/3565.html
- 釧路市動物園「ホッキョクグマ」 https://www.city.kushiro.lg.jp/zoo/shoukai/0049.html
- よこはま動物園ズーラシア「ホッキョクグマ」 http://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/zoorasia/animal/subarctic/PolarBear/
- ナショナルジオグラフィック「ホッキョクグマ、687キロを泳ぐ」 https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/4607/
- ナショジオ動画「餓死寸前のホッキョクグマ エサ求める姿が涙を誘う」 https://style.nikkei.com/article/DGXMZO25371690V00C18A1000000/
- シゼコン 自然科学観察コンクール「ホッキョクグマの毛は本当は何色か?~なぜ白く見えるのか?~」 https://www.shizecon.net/award/detail.html?id=189
- カナダシアター「もっと知りたい ホッキョクグマ」 https://www.canada.jp/stories/post-1015/
- 札幌市円山動物園「ピリカのプールデビュー」 https://www.city.sapporo.jp/zoo/topics/polar_bear4.html
- 東京ズーネット「企画展「クマ──飼育史・冬眠・研究」開催中!」 https://www.tokyo-zoo.net/topic/topics_detail?kind=event&inst=ueno&link_num=10670
- 国立極地研究所「北極海の豊かな生態系を育む植物プランクトンの通年の生物量変化を初観測—天然の有機物貯蔵庫が海洋生物のホットスポットを支えている—」 https://www.nipr.ac.jp/info/notice/20160429.html
- 夢ナビ「クマが冬眠するメカニズムとは?」 https://yumenavi.info/lecture.aspx?GNKCD=g002697
- 神戸市王子動物園「第36号はばたき」 http://www.kobe-ojizoo.jp/habataki/pdf/habataki36.pdf
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