ニホンザル

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ニホンザルは名前の通り、日本に住んでいる唯一のサルの仲間です。
「桃太郎」や「さるかに合戦」などの昔話にも登場するニホンザルは、日本人にとってはなにかとなじみの深い動物といえるでしょう。
しかし改めて考えてみると、意外とその生態や特徴について知らないことも多いのではないでしょうか?
この記事でニホンザルにはどんな特徴や秘密があるのか、一緒にニホンザルの世界をのぞいていきましょう!


~基本情報~

哺乳綱霊長目(れいちょうもく)-オナガザル科-マカク属

オス 体長53~60cm 体重10~18Kg
メス 体長47~55cm 体重8~16Kg

ニホンザルは日本全土、青森県から鹿児島県にかけての広い範囲に生息している日本固有の動物です。ブナやナラなどの広葉樹が生えている森林を好み、複数のオスとメスが混ざった群れで暮らしています。

ニホンザルは年に1回だけ繁殖期(はんしょくき)を迎え、繁殖期になるとオスもメスも複数の相手と交尾をします。繁殖期は生息地によって異なりますが、多くのニホンザルは秋から冬にかけて交尾し、春から秋のはじめにかけて出産することが多いとされています。妊娠期間(にんしんきかん)は平均173日で、1回に1匹の子どもを産みます。双子が生まれることは珍しいようです。

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ニホンザルは雑食性(ざっしょくせい)の動物で、果実や種子、葉っぱや花、シダ植物やコケなどの植物を中心にキノコ、海藻などあらゆるものを食べています。雑食性なので昆虫や貝、トカゲやカエルなどの動物質のものを食べることもあります。またミネラルなどを補給するため、粘土質の土を食べる習性があることも知られています。


ニホンザルのQ&A

ニホンザルはどのくらいの数がいるの?

日本全体に生息しているニホンザルの個体数は、はっきりとわかっていません。
平成22年度には全国におそらく15万頭ほどのニホンザルがいるのではないか、という調査結果が報告されています。


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ニホンザルはどのくらい生きるの?

ニホンザルの寿命は野生下で25年ほど、飼育下で30年ほどといわれています。
ちなみにニホンザルのオスは7~8歳、メスは5~6歳ほどで性成熟を迎えて大人になり、子どもが産めるようになります。


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ニホンザルはどうして顔やおしりが赤いの?

ニホンザルは顔やおしりの皮膚が薄いため、皮膚の下にある毛細血管(もうさいけっかん・とても細い血管のこと)の色が透けて見えています。そう、ニホンザルの顔やおしりの赤色は、実は毛細血管の色だったのです。

ちなみに子どものニホンザルは顔がピンク色ですが、大人になると毛細血管が増えるため顔の赤色が増していきます。特に秋~冬にかけての繁殖期の間は赤色が強く、鮮やかになります。

なお日本人にとって一番身近なサルはニホンザルであることから、サルの顔やおしりは赤いというイメージを持っている人も多いことでしょう。しかし実は世界的に見ると、顔やおしりが赤いサルは珍しい存在なのです。ニホンザル以外の顔が赤いサルとしては、「アカウアカリ」や「マントヒヒ」などが知られています。


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ニホンザルは意外と力が強いって本当?

本当です。
ニホンザルのように木に登る動物は握力がとても強いことが知られていて、ニホンザルは体重の3倍以上の握力があるといわれています。(一例:体重が10Kgなら握力は30Kg以上)

ちなみに人間の握力と体重を見てみると、一番握力が強いといわれる35~39歳くらいの大人の男の人でも握力は平均47.64Kgほどだといわれています。(30~39歳の男の人の平均体重は68.2Kgほど)実際に数字を比べてみると、ニホンザルの握力がとても強いことがわかりますね。

なお大人のニホンザルに思いきり手を握られるととても痛く、なかなか振り払えません。


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ニホンザルのしっぽはなぜ短いの?

霊長類(サルの仲間のこと)はしっぽが長いものが多いのですが、ニホンザルのしっぽはとても短く大体10cmくらいしかありません。ではなぜ、ニホンザルのしっぽは短いのでしょうか?

霊長類のしっぽは木に登る時や木から木へ飛び移って移動する時に、体のバランスを取るために使われることが多いとされています。つまり本来木に登ることがある動物ならば、しっぽが長い方が有利なのです。

しかしニホンザルは冬には氷点下になる場所に住んでいることから、寒さから身を守るためにしっぽが短くなったと考えられています。しっぽが長いとそこから熱が逃げてしまううえ、しっぽの先が寒さで凍って最悪の場合は腐って落ちてしまう凍傷(とうしょう)になることがあるからです。

なおニホンザルには生まれつき肛門(こうもん・おしりの穴)の左右に、だ円状の白いでっぱりがあります。これは「しりだこ」と呼ばれていて、座る時に体を安定させる役割があると考えられています。


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ニホンザルは寒さに強いの?

ニホンザルは数多くいる霊長類の中でも、特に寒さに強いことが知られています。
ニホンザルが寒さに強い理由は、彼らの毛を見ていくとわかります。外側の毛は長くて荒いのですが、内側の毛は短くて密集して生えているのです。この毛のおかげで体の熱を逃がしにくく寒さには強いのですが、その分暑さには弱いといわれています。

ニホンザルは季節によって、毛が生え変わることも知られています。冬毛はより熱を逃がしにくい長くてふさふさ、黄土色がかった毛で、夏毛は短くてこげ茶色の毛が生えます。

なおニホンザルはヒトを除く霊長類の中で、一番北に生息していることが知られています。中でも青森県の下北半島(しもきたはんとう)に生息しているサルは「北限のニホンザル」と呼ばれ、世界で一番北に住んでいるニホンザルとして昭和45年に国の天然記念物に指定されています。

ちなみにニホンザルは英語で「Japanese macaque(ジャパニーズマカク)」と呼ばれていますが、時に雪の中で暮らすサル「snow monkey(スノーモンキー)」と呼ばれることもあります。ほとんどの霊長類が暖かい地域に生息しているのにもかかわらず、雪の中で平然と暮らすニホンザルは海外の研究者にとって興味深い存在なのだそうです。


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ニホンザルは温泉が好きって本当?

本当です。とはいえ、全てのニホンザルが温泉に入るわけではありません。

ニホンザルにとっての温泉は、私たちにとってのお風呂とは少し意味が異なります。実はニホンザルが体の汚れを落とすために温泉に入ることはないのです。彼らが温泉に求めているのはあくまで「温かさ」であり、暖かい時期に積極的に温泉に入ることはありません。

長野県の地獄谷に生息しているニホンザルは温泉に入ることで有名で、中でも「地獄谷野猿公苑(じごくだにやえんこうえん)」は間近で野生のニホンザルを観察できる場所として国際的に有名です。アクセスしにくい場所にあるにも関わらず、地獄谷野猿公苑には毎年海外からたくさんの観光客が訪れています。

ちなみにニホンザルは人間と比べると汗をかきにくいこと、そしてもともと寒さに強いことから湯冷めをすることはないと考えられています。


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面白い文化を持ったニホンザルがいるって本当?

本当です。上でお話した温泉に入るニホンザルのように、面白い文化を持ったニホンザルは数多く存在しています。

中でも特に有名なのは、宮崎県の幸島(こうじま)に生息しているニホンザルの「イモ洗い」です。幸島に生息しているニホンザルは海水でイモを洗い、砂を落として塩味を付けてから食べることが知られています。その他にも幸島のサルは上手に泳ぐこと、他のサルがあまり食べない生魚を食べることでも有名です。

ちなみにイモ洗いをはじめとした新しい文化は子どもやメスのサルから始まることが多く、群れにいる他の個体に少しずつ広がっていき最終的には群れのボスにまで伝わっていくそうです。


動物園のニホンザルはどんな物を食べているの?

動物園で暮らしているニホンザルはサル用のペレットを中心に、野菜(キャベツ、ニンジン、サツマイモ、コマツナなど)や果物(リンゴやオレンジ、バナナ、ブドウなど)、動物性たんぱく質(卵や煮干し)、食パンなどを食べています。

ただし人間が食べる果物は自然のものと比べると甘すぎることから、ニホンザルの健康に良くないと考えている動物園もあります。そういった考えの動物園では果物の量を減らし、野菜を中心に野草や木の枝や葉っぱなどを与えているようです。


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ニホンザルはペットとして飼えるの?

動物園やテレビ番組などでニホンザルを見て、家で飼いたい!と考えたことがある人もいるのではないでしょうか。ところでニホンザルは、イヌやネコと同じようにペットとして飼うことはできるのでしょうか?

ニホンザルは日本の法律では、人に危害を加える可能性がある「特定動物(とくていどうぶつ)」という種類に分類されています。以前は特定動物であっても定められた条件を満たし、都道府県への届け出を行えばペットとして飼うことができました。しかし令和2年6月1日に動物愛護管理法(どうぶつあいごかんりほう)が改正され、特定動物を新たに愛玩目的(あいがんもくてき・ペットとして飼うこと)で飼うことが全面的に禁止されました。

つまり以前はニホンザルをペットとして飼うことができましたが、現在は飼うことができません。なお法律の改正前から飼育されているニホンザルは引き続き飼育でき、動物園や研究施設においては許可があれば以前と同じように飼育ができます。


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なぜ野生のニホンザルにエサをあげてはいけないの?

さて、ここで1つ質問です。
あなたが山に遊びに行った時に野生のニホンザルに出会って、その時ちょうどパンや果物を持っていたらどうしますか?

そんな状況になったならエサをあげてみたい、と思う人もいることでしょう。ですが野生のニホンザルに出会った際は、絶対にエサをあげてはいけません。なぜなら野生のニホンザルにエサをあげると、ニホンザルが人間はエサをくれるものだと思ってしまうからです。

ニホンザルが人間を怖がらなくなると手当たり次第人間に飛びついたり、人里に下りてきてしまったりする可能性があります。野生のニホンザルは力が強く、歯も鋭いので襲われると大ケガをしてしまうかもしれません。また人里に下りてきたニホンザルがゴミを漁る、民家に侵入する、畑を荒らすといった行動をして、害獣(がいじゅう)として殺されてしまうかもしれません。さらに何らかの病気や寄生虫などを持っていて、それが人間に感染する可能性もあります。

このような理由があるため、ニホンザルがエサをねだってきても、かわいいと思っても絶対にエサをあげないことが大切です。


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ニホンザルにはどんな敵がいるの?

ニホンザルは日本固有の動物ですが、日本国内にはニホンザルを積極的に食べる野生動物はいません。実は野生のニホンザル最大の天敵は、私たち人間なのです。

私たちはニホンザルが暮らす広葉樹の森を切り開き、スギやヒノキなどの人工林や人間が住む場所に変えてしまいました。さらに食べ物や住みかが無くなってしまったために人里に下り、畑の野菜や果物を食べてしまったニホンザルを毎年害獣として駆除しているのです。今のところニホンザルが絶滅する可能性は低いと考えられていますが、日本人とニホンザルがより良く共存できる方法を模索していきたいものですね。

なおかつての日本には、ニホンオオカミというオオカミが生息していました。もしかするとかつてはニホンオオカミがニホンザルを襲って食べる、ということもあったのかもしれません。しかしニホンオオカミは1905年に絶滅してしまったため、今やニホンザルとニホンオオカミの関係性は誰にもわからないのです。


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ニホンザルの種類

・ニホンザル(ホンドザル)
・ヤクシマザル(ニホンザルの亜種、ヤクザルとも呼ばれる)


参考文献

伊谷 純一郎(1986年)『動物大百科 霊長類』平凡社

青森県観光情報サイト「北限のニホンザル」
https://www.aptinet.jp/Detail_display_00000053.html

東京ズーネット「たまZOO・かんさつシートニホンザルのからだ」
https://www.tokyo-zoo.net/guided/j_macaque_K.pdf

京都大学人類進化論研究室「ニホンザルってどんな動物?」
https://jinrui.zool.kyoto-u.ac.jp/Arashiyama/whatisJmacaque.html

NHK 読む子ども科学電話相談「短いしっぽは何のため?」
https://www.nhk.or.jp/radio/kodomoqmagazine/detail/20180801_03.html

環境省自然環境局 生物多様性センター「自然環境保全基礎調査」
http://www.biodic.go.jp/kiso/tokudo_kiso_f.html

旭川市旭山動物園「年老いたサル」
https://www.city.asahikawa.hokkaido.jp/asahiyamazoo/news-blog/siiku-blog/d067325.html

釧路市動物園「ニホンザル」
https://www.city.kushiro.lg.jp/zoo/shoukai/0043.html

京都大学 霊長類学・ワイルドライフサイエンス・リーディング大学院「地獄谷野外実習実施報告書」
https://pws.wrc.kyoto-u.ac.jp/pdf/reports/Report-2014-03-10-Jigokudani.pdf

産総研「体重」
https://unit.aist.go.jp/riss/crm/exposurefactors/documents/factor/body/weight.pdf

練馬区「世代別 握力平均値」https://www.city.nerima.tokyo.jp/hokenfukushi/hoken/kenkodukuri/kenkoi7/20190305111627975.files/akuryokuheikinti.pdf

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